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『sweetens up』

 二日前の深夜に届いた一通のメール。

 二十年来の親友から届いたそのメールにはタイトルも本文もなくただ画像が一枚添付されていた。

 東京の仮住まいのマンションの一室でその画像を見た俺は……ヤバイと直感で感じた。

「フゥ……」

 そしてようやく仕事の都合をつけて名古屋に帰って来た俺はトップスのケーキを片手に岡山家のインターホンを押した。

 応答までの間に携帯を取り出してもう一度添付されていた画像を見た。

 ソファに膝を抱いて座り膝の上に顔を乗せ仏頂面でテレビを見ているタマの横顔はタクが盗み撮りをしたのかカメラ目線ではない。

 でもその横顔からでも不機嫌なのは一目瞭然。

「最近忙しかったからなぁ……」

 気が付けばもう季節は秋になっている。

「あら庸介くん。久しぶりね、どうぞ」

 玄関のドアが開くと睦美さんが笑顔で迎えてくれた。

「こんにちは。タマは……?」

「部屋にいるわよ。でも気をつけてね?」

 意味深な笑みに苦笑いを返しながら階段を上がり小さな花のリースの掛かるドアをノックした。

 だが返事はない。

「タマ、入るぞ?」

 勝手にドアを開けて部屋に入るとタマは布団を頭まですっぽり被ってベッドの上で丸くなっている。

 東京を出る前に送ったメールにも返事は返って来なかった。

 相当機嫌を損ねてしまったらしい。

「タマの好きなチョコケーキとチーズケーキ買って来たぞ」

「……いらないもん」

 くぐもった声が布団の中から聞こえて来た。

 予想通りの反応にベッドに腰をかけた俺は盛り上がった布団の山にもたれた。

「どうした? ダイエット中か?」

「…………」

「なんだよ。せっかく帰って来たのに顔も見せねぇのか? 冷たい奴だなぁ」

「…………もうっ!」

 布団の中からガバッと出て来たタマは膨れっ面で睨みつけてきた。

「冷たいのはどっち! それにケーキで機嫌直るほど子供じゃないもん!」

「機嫌取るだけならワザワザ来ねぇよ」

「じゃ…………何しに来たの」

「タマの顔が見たかったからだろ?」

 小柄な体を抱き上げて膝の上に乗せるとタマは顔を真っ赤にして俯いた。

 俯くタマの頬に手を添えて耳元に唇を寄せた。

「タマは? 会いたかった?」

「あ、会いたいに決まってる! ずっと庸ちゃんの事待ってるのに……」

「じゃあ……キスしていいか?」

「え?」

「ダメか?」

 花火のあったあの夜以来一度も触れていない唇を指で撫でた。

 小さくて柔らかい唇にドクンと心臓が跳ねる。

「ダ、ダメじゃないけど……」

「けど?」

「……お兄ちゃんが見てるよ?」

 タマが指差すを方を振り返れば窓ガラスに張り付くタクの姿。

 そこまでして阻止したいか。

 タクのシスコンにはほとほと呆れる。

「こうすれば問題ない」

 俺は片手で布団を引っ張ると二人の体をすっぽりと覆い光の遮られた闇の中で二度目のキスをした。

end


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