メルマガ保管庫
『俺は君のモノ』
「あと一時間くらいで栄に着くから飯食うか」
まだ眠っていた陸が携帯が鳴り電話口から聞こえて来た声に飛び起きて電話を切った瞬間にベッドを飛び出し浴室へ駆け込んだのは二時間前。
名古屋に出て来た竜之介と待ち合わせをして食事を終えると二人は久屋大通を北に向かって歩き竜之介は三越に入って行った。
特に行き先も目的も告げられていない陸は竜之介に付いて行く。
竜之介が向かった先は一階にある有名ブランドのジュエリーショップ。
男二人で店に入ると店内に居た客が好奇の視線を送ったが竜之介は気にすることなく目的物を探し始めた。
そして迷うことなくショーケースの中から指輪を選び出す。
「これとこれ見せて下さい」
「美紀さんのお誕生日ですか?」
「ん? 違うよ。やっぱりダイヤが入ってた方が良さそうだ。こっちにする」
(早っ……)
決して一万や二万の金額じゃない物をほんの一、ニ分で決めてしまったことにさすがの陸も驚いた。
「プレゼントですよね?」
「まぁ……プレゼントっちゃプレゼントだな」
「結婚記念日ですか?」
「いや? 別に何にもねぇけど」
(じゃあ……どうしてそんな……)
決して安いとは言えない金額の物を何もないのにプレゼントするという竜之介に言葉を失う陸を見て竜之介はどうした?と声を掛ける。
聞かれても何ていいか分からず迷っていると竜之介は陸が見ている目の前でそれを現金で払う。
(現金いくら持ってんだよ……)
思わず見えてしまった財布の中身に慌てて目を逸らしてしまった。
「変な奴だな。お前だって稼いでんだろ、ビビるなよ」
「いや……なんていうか……麻衣は高い物買うと怒ったりするんで……」
意味もなく高い物を買って贈ろうものなら喜ぶより先に怒る麻衣。
もし自分が突然この指輪をあげるなんて言ったら麻衣は怒り狂うに決まっている。
「アイツは俺たちの娘だけどほんと可愛げがねぇんだよな……」
「い、いや、……まぁ」
色々したくても麻衣に怒られては元も子もないと最近は自重している。
本当なら色んな物をあげたい、服でもアクセサリーでも自分の選んだ物を身に付けて欲しいのが本心だ。
「でも……よく考えたらよ、プレゼントになんねぇんだよな」
「え? どういう……」
「もともと俺は美紀のもんだからな。俺の髪の毛一本から稼ぎ出す金まで全部な、美紀がいるから俺って男がいる」
「…………」
照れもてらいもなくその言葉を口にする竜之介に陸は何も言葉が出なかった。
いつも自分が麻衣にしてあげるんだとばかり思っていたけれど竜之介の言葉を聞いて自分の傲慢さに気が付いた。
(やっぱ……違うんだよな)
「お前は若いな」
目を細めて笑う竜之介は陸の頭に手を置いた。
「お前はお前のやり方でアイツのそばにいてやればいいよ。自信を持て」
顔を覗きこまれて頭をポンポンと叩かれる。
陸の瞳には竜之介に父の姿がだぶって見えた。
end
前へ | 次へ
コメントを書く * しおりを挟む
[戻る]