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『カボチャの逆襲!?』

「あぁ……よく寝たぁ。さすがに昨日は飲みすぎたか……」

 ようやく目が覚めた陸は冷蔵庫から取り出した水を片手にリビングへと来た。

 ソファに座る麻衣は小説を読んでいたがそれに構うことなく横にすり寄るように座ると朝のキスをする。

「おはよう麻衣ちゃん」

「おはよう、ご飯の支度してくるね」

「え? あ、あぁ……じゃあシャワー浴びてこようかな?」

 こころなしか麻衣の態度が冷たいような気はしたが陸はそれほど気に留めず風呂場へと向かった。

「ふぅ、サッパリ、サッパリ!」

 シャワーを浴びて頭も体もすっきりした陸はタオルで髪を拭きながらダイニングテーブルへと座った。

 キッチンからは香ばしい匂いが漂って来ると深酒したことなどまったく関係ないとばかりに陸の体は空腹を訴えた。

「お待たせ」

 湯気の上がる料理をトンと前に出されると陸はフォークを手に取った。

 だが陸の手はそのまま微動だにせず出された料理を凝視して言葉を発するのも忘れていしばらくするとハッとした顔で巻いを見上げた。

「あ、あのさ……これって」

「カボチャのグラタン」

「なんで!? なんでなんで! 俺がカボチャ嫌いって知ってんじゃん! 昨日だって一日カボチャに囲まれて罰ゲームみたいだったのに」

「カボチャには栄養たっぷりなの。だからワザワザ陸の好きなグラタンにしたんでしょ」

 まだチーズがブクブクと動いているグラタンを指差して陸はわめいた。

 それを受けて麻衣は表情を変えずに淡々と説明しているが言葉の端々がとげとげしい。

 陸はようやく状況を察してフォークを置くと麻衣と向き合った。

「何怒ってるの?」

「はぁ!? なんで私が怒らなくちゃいけないの! 全然分かんないっ」

「分かんないって……麻衣すげぇ怒ってんじゃん」

 誰が見ても怒っているのに本人は怒ってると思われるのは不本意だと憤慨している。

 麻衣は胸の前で腕を組んでフンッと顔を横に向けるとまだブツブツと「怒ってない、怒る必要ない」と呟いている。

 陸は立ち上がると麻衣を抱き寄せたが逃げ出そうとする麻衣にさらに力を込めると胸の中に抱きしめた。

「俺……何かした?」

「何もしないからっ――――」

 麻衣は言ってからハッとしたような顔で口を閉ざしてしまった。

 よほど怒っているのかと陸は小さくため息をついたが腕の中で俯く麻衣の首筋が赤く染まっていることに気が付いた。

(怒ってるんじゃないのか?)

 思い違いをしているのかもしれないと陸は俯く麻衣の頬に手を添えると上を向かせた。

 嫌がる麻衣の顔を両手で挟み込み強引に向かせたが真っ赤な顔の麻衣はどんなに覗きこんでも目を合わせようとはしない。

「俺に何をして欲しかったの?」

 視線を不自然に泳がせるに麻衣の肌は赤味を増していく。

(ん? これは……)

 麻衣の様子を見ているうちにその原因が自分にとってはそれほど悪い話じゃないような気がしてきた。

「ね、教えて? 麻衣が望むことなら俺はなんだってしてあげるよ」

 宥めるように優しい声を掛けながら額や鼻に軽いキスをしているとようやく麻衣は口を開いた。

「昨夜……アレ着て待ってたのに……」

 小さな小さな声で呟いたその言葉に陸は最初は意味が分からなかったが少しずつ昨夜のことを思い出していくうちにようやく原因に辿り着いた。

 昨夜はカボチャに囲まれるのが苦痛でいつもよりもピッチを上げて飲んでしまった。

 しかも寝不足ということもあり酔いの回るのが早かったせいかマンションに着いた頃には体を動かすのもおっくうだった。
 
 もちろん麻衣の言う「アレ」も思い出すことが出来た。

「今夜も着てくれる?」

「もうやだ」

「お願い。ちゃんとカボチャも食べるから、もう一回俺だけに可愛い麻衣見せて?」

 目を逸らしていた麻衣はようやく視線を戻すと上目遣いで陸を見た。

 拗ねたように口を尖らせながら口を開いた。

「陸はずるい。そうやって言えば私がイヤって言えないの分かってるんでしょ。もうバカ……」

「違うよ。ほんとの気持ち」

 尖らせた唇にキスをすると麻衣を優しく抱きしめて髪を撫でた。

 今夜は酒は控えて早く帰ろう。

 仕事の前に名駅に寄って麻衣の好きなチョコレートとイチゴを買っておこう。

 それで今夜はこの前貰ったヴーヴ・クリコを開けてソファでイチャイチャするんだ。

 陸は頭の中で今夜の予定を立てながらチラッとテーブルの上に視線を落とした。

(とりあえずはコイツを何とかしないとな)

 これから立ち向かうべき敵を睨みつけた。

end


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