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『年の事は言わないで!』
麻衣が寝込み始めて二日目の夕方。
ようやく熱が37度台まで下がり起き上がれた麻衣はベッドから出てリビングのソファにいた。
「ったく…どうして大人しく出来ないかなぁ」
アツアツのレモネードの入った耐熱グラスをテーブルの上に置いた陸は呆れながら隣に座った。
一時は39度近くまで上がりなかなか下がらない熱に一睡もせずに看病した陸は熱が下がっても気が気じゃない。
淹れてもらったレモネードに口をつけながら「もう大丈夫」と麻衣は笑った。
「どうして陸はピンピンしてるの?」
風邪を引いた原因が一晩中裸で寝ていた事だけに自分だけ風邪を引くのは納得いかないと麻衣は文句を言った。
普段からジムで身体を鍛えている陸がそれくらいで風邪を引くはずはない。
それに二人には決定的な違いがあった。
もちろん陸はその理由に気が付いてるらしく唇を尖らせている麻衣を見て小さく笑った。
「そりゃ…ねぇ?」
「なぁに、その顔…」
「俺、まだ22だもん」
ニッと陸が笑えば麻衣はムッとしたように頬を膨らませた。
この前は年齢のことで一騒動起こしたばかりの二人だがわだかまりは薄らいだはずだった。
けれど自分がその対象になると感じ方はまったく違った。
「どうせ…私は29……あれ? 陸が22なら八歳違いだと…さんっ…」
忘れていたわけではないけれど自分で口にして初めて気が付いた。
大台までのカウントダウンはもう始まっていた。
「今年の誕生日は盛大にお祝いしなくちゃね!!」
もちろん麻衣の気持ちを汲み取った上でにっこり笑う陸は本気で盛大な誕生日会でも開きそうな勢い。
麻衣はムムッと眉間に皺を寄せた。
「なんか熱出て来た…、寝てくる」
レモネードを飲み干した麻衣は仏頂面で呟くと立ち上がった。
すかさず陸は麻衣を抱き上げて寝室へと運ぼうとする。
「自分で歩ける!」
「いえいえ…年長者は敬わないとね?」
パチンとウインクして見せると鼻歌でも飛び出しそうなほどご機嫌な足取りで寝室へと向かう。
麻衣は少し元気になった体を震わせながら叫んだ。
「年の事は言わないでーーっ!!」
麻衣――三十路まであと僅か。
end
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