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『手当て』

 中塚家のリビングのソファで麻衣が珍しく青い顔をして横たわっていた。

 腰の辺りにブランケットを掛けて目を閉じている。

(休みで良かった…)

 これが平日ならとても仕事は出来そうにもないと胸を撫で下ろしていた。

 帰りの遅かった陸はまだ寝室のベッドの上、陸が寝ている間に最低限の家事だけ済ませようと思ったのだが腰の倦怠感に加え下腹部の痛みと頭痛に耐え切れず横になった。

 昔はあれほど憂鬱だった生理だが今は愛しい人の子供を授かる為には大切な事だと思っている。

 だからこそ出来る事なら薬は飲みたくない。

 鎮痛剤に手を伸ばしたが思いとどまり寝ている方を選んだ。

 生理痛は人並みだと思うけれど、今回はいつもよりも酷く起きているのも困難なのは久しぶりでこうしてソファに横になっていた。

(そろそろ陸が起きる頃かな…)


 もう昼近くになっている。

 いつもならもう少し寝ているだろうけど麻衣が休みの日曜日は早く起きて来る事が多い。

「麻衣?」

 案の定起きてきた陸が麻衣を探す声が聞こえて来た。

「陸、おはよ。何か食べる? すぐ用意するよ」

 起き上がりながら歩いて来た陸に声を掛けた。

 陸は麻衣の姿を見つけるとすぐに側に来て起き上がろうとした麻衣を制した。

「辛い? ココア飲む?」

 ソファの前に跪いた陸は心配そうな顔で麻衣の顔を覗き込みながら青い顔を撫でるように手を添えた。

 麻衣は陸の手に重ねるように手を添えて微笑みを見せたがやはりいつもよりも元気が無い。

「今月はヒドイみたいだね」

 一緒に暮らすようになってから陸はかなり不純な理由からではあるが麻衣の体のサイクルを気遣っていた。

「こればっかりは俺は代わってやれないし…」

「ううん。心配してくれてありがと」

 その優しさが痛みを和らげていくような気さえした。

 陸はソファに座ると麻衣の頭をそっと自分の足の上に乗せた。

「少しでも楽になるように…」

 陸はブランケットの下に手を入れると麻衣の下腹部に手を当てた。

 温かい陸の手からじわ〜っと体温が伝わって来る。

「陸の手あったかいね…」

「俺の手で麻衣が少しでも楽になるならこんなに嬉しい事ないよ」

 愛しい人の手はどんな良薬も敵う事はない。

 陸の手が触れる部分から少しずつ痛みが消えていくのは不思議だが幸せな気持ちに包まれた。

 陸もまた少しずつ顔色の良くなる麻衣を見てホッとしながら心を込めた手当てを続けた。

end



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