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『Cheers!』
夕方、麻衣は久しぶりの外食と明日からの三連休に浮かれながら待ち合わせの場所へと向かった。
「明日、休み取ったんだよね?たまには外で食わない?俺仕事休みだし、行きたいとこあるんだ」
今朝、まだ眠そうな顔の陸が誘ってくれた。
金山駅の北口で待っていた陸と合流して向かったのは歩いて数分の串かつ屋。本店とは違いしっとりと落ち着いた雰囲気。
珍しくお酒を飲まなかった陸は食事が済むとすぐに次の場所へと麻衣を連れて行った。
地上三十階。
夜景が見えるカウンターに並んで座りいつものように陸は二人分のカクテルをオーダーした。
陸が私に選んでくれたのはビールベースのレッド・アイ。
同じくビールベースのドッグズノーズを陸はオーダー。
麻衣は一口含んでから小さな含み笑いをした。
「今日はどうしてこれ?」
アルコール度数が低めのカクテル、ビールにトマトジュースという組合せではロマンチックに酔える雰囲気でもない。
麻衣の心中を察したのか陸は小さく笑った。
「酔わせないと口説けないのかな?」
「酔わせなくても口説くくせに?」
軽口を叩く陸に向かって麻衣はクスリと笑った。
二人は頬を寄せ合うように顔を見合わせて微笑みあった。
いつもなら二杯目を頼む陸だが一杯目を飲み終わると立ち上がって麻衣の手を引いて歩き始めた。
22時を少し回ったところで帰るにはまだ早いような気がするがどうやら何か理由がありそうだった。
エレベーターを待つ間、麻衣は陸の顔を覗きこんだ。
「なぁに?」
「なんか楽しそう?」
「とーぜん。麻衣と一緒ならいつでも楽しいに決まってるじゃん」
いつもの調子で返されて麻衣は返す言葉がなかった。
陸は不思議な顔をして首を傾げる麻衣の横顔を見ながら唇の端を上げた。
「麻衣は楽しくない?」
麻衣の肩を抱いて囁くと同時にエレベーターが到着した。
「楽しくないわけないでしょ…」
エレベーターに乗り込みながら麻衣は陸の腰に手を回して体を寄せた。
陸は麻衣の髪に優しいキスを落とすとボタンを押した。
「え?」
27階のボタンが点灯したのを驚いている間にエレベーターは目的の階で止まった。
「り、陸!?」
「楽しい夜にしようね?」
陸はポケットから取り出したカードキーを見せて微笑んだ。
いつの間に…と思ったがホテルに着いて化粧室に入った事を思い出した。
きっと陸の事だから予約をしてありチェックインだけ手早く済ませたのだろう。
部屋に入って麻衣はあ然としながら恨めしい視線を陸に送った。
「たまにはね?」
たまには…と言われても部屋のグレードが普通ではない。
一泊いくらなの!? と部屋をグルグル見渡す麻衣だったが陸は気にしていない様子ですたすたと入ってしまう。。
仕方なくソファに腰を下ろし少々呆れ顔の麻衣は後ろから抱きしめられた。
「お風呂、入ろ?」
首を捻って見た陸の顔はさっきよりも楽しそうに緩んでいる。
怪しみながらもこの状況を受け入れることにした麻衣は陸に手を引かれるままについて行った。
「風呂に窓があるのはいいよなぁ〜」
陸はシャンパングラスを片手に窓から見える市内の夜景を眺めていた。
チェックインの時にスパークリングワインも手配していたらしくその用意周到さはさすがにホスト?と麻衣は感心した。
「やっぱり酔わせて口説くんだ?」
腕の中に抱かれている麻衣はわざとらしく嫌味を言ったが陸にはまったくと言っていいほど通用しないらしい。
「口説かれてる気がする?」
「べ、別に…ぃ…」
「可愛い。もっと好きになっちゃう?」
「こんな事しなくても…好きって分かってるくせに」
「もっともっとだよ。麻衣が俺のそばを離れられなくなるくらいね」
甘い囁きとうっとりするような夜景、サプライズのプレゼントは麻衣を酔わせるには十分だった。
「大好き」
「私も…」
二人はグラスを傾けて軽い音を立てたがそれを口に運ぶことはなく何よりも甘い唇を重ね合わせた。
end
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