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『追い込み中』←BL

「なぁ…」

「休憩は3ページ分訳してからだよ」

「まだ何も言ってねぇじゃん!」

「祐二の言いそうな事くらい分かるよ」

「なぁ…気分転換に昨日借りてきたDVD見ようぜ!字幕で見たら英語の勉強にもなるだろ?なっ?なっ?」

「気分転換するほどやってないよね。」

 俺が夏休みの課題に悪戦苦闘している横で貴俊はベッドの上で本を読んでいた。

 夏休みが終わるまで課題が終わらないのは毎年のことだが今年は違う。

 スパルタの貴俊のおかげで英語の課題を残すだけとなったが夏休みはもう今日入れて二日しかない。

 英和辞典を手にしながらチラッと貴俊の顔を盗み見た。

 少し目を伏せた横顔がより美形を引き立てていた。

 なんだよ…ちょっとは俺のこと構えっつーの。

 毎日二人っきりでいるのに本ばかり読んで気持ちが悪いくらい何もしてこない。

「祐二、どうしたの?」

「へっ!?べ、別に…じゃ、邪魔すんなよ!」

 ビビったぁ〜〜どこに目付いてんだよ!

 貴俊に声を掛けられてビクッ!と体を強張らせ心臓をバクバクさせながら慌てて英語の辞書を開いた。

 ブツブツと口の中で単語を呟く祐二を視線を上げた貴俊がクスッと笑った。

 全然分からねぇ…。

 課題は英語で書かれた童話の和訳だったがさっきから一行も進んでいなかった。

 だいたい『美女と野獣』ってどんな話だよ。

 ガラスの靴はシンデレラだし…王子様がキスすると目を覚ますやつか?

「祐二、進んでる?」

「お、おぅ…」

 不意に声を掛けられて慌てていると貴俊は立ち上がって俺の後ろに立った。

 俺は見られないようにと机に覆い被さった。

「祐二?」

 明らかに不審な行動を取ると貴俊はすぐ後ろに座り俺の体を机から引き剥がした。

 力で敵うわけもなく呆気なく真っ白なレポート用紙が貴俊の目に触れた。

「しょうがねぇだろ!お、俺はお前と違って頭の出来が違うんだから…」

「どうして祐二はすぐそうやって言うの?俺はそんな風に思ったことなんて一度もないよ」

 いつもよりずっと優しい声に余計に悲しくなる。

 そんな胸の内を隠すようにシャープペンを強く握り締めると貴俊が手を重ねた。

「でも…俺にとってはそんな祐二が可愛くて仕方がないんだけどね」

「可愛いって言うなぁっ!」

 耳元で囁かれてブルブルッと身震いした。

 貴俊は何かっていうと俺のことを可愛い、可愛いって…俺は男だっつーの。

「そんな事より…どこが分からない?」

 くそっ…軽く流された。

 いつもだったらこんなの絶対に許さねぇけど今は目の前の課題を片付けることが最優先。

「なぁ…これってどんな話何だよ」

「訳せば分かるよ?」

「で、でも…どんな話か分かってた方が訳しやすいだろ?お、お前の訳したやつをチラッと…」

 勉強机の上に視線を向けた。

 貴俊はあぁ…と完璧に訳してあるだろうレポート用紙に手を伸ばした。

 目の前に綺麗に綴じられたレポート用紙を差し出されて喜んで手を伸ばした。

 だが高く持ち上げられて俺の手は宙に浮いた。

「何すんだよっ!」

「ただで見せてもらおうなんて都合が良すぎるよね?」

「はぁっ!?いつからそんな性格悪くなったんだよ!」

「さぁ?でも…可愛い姫なら性格の悪い俺の目を覚ます事が出来るもしれないな」

「何だそれ…」

 俺は言ってる事が理解出来なくて眉間に皺を寄せた。

 貴俊はそんな俺を見ると俺の耳に口を寄せてボソボソと呟いた。

「やっぱりお前変態だろっ!」

 目を剥いて貴俊に掴みかかると鼻先でフッと笑われた。

 課題を見せてもらうかわりに俺からのキスを要求するあたりいかにも貴俊らしい。

 一年前なら絶対にありえなかったが今は違う。

 俺は貴俊の胸倉を掴むと乱暴に自分の唇を押し付けた。

「し、したからなっ!!」

 文句あるかっとばかりに貴俊の顔を睨みつけた。

 キスをされた貴俊は嬉しそうな顔で笑った。

「祐二の為だからね」

 俺は期待に目を輝かせて貴俊を見上げた。

 優しい顔で笑う貴俊は目を細めて俺の頭を撫でる。

「自分の力でやらないと祐二のためにならないからね。だから俺は心を鬼にすることにしたよ」

「へっ!?」

 俺は貴俊の手を離れ宙を舞うレポート用紙を目で追っていたがハッとして貴俊を振り返った。

「ざけんなっ!キスまでさせといてっ!」

「これが終わったらそれ以上のご褒美をあげるからね」

 怒り狂う俺の頬にキスをする貴俊は一人楽しそうに笑いながら放心状態の俺の横に座り家庭教師の顔になった。

 三時間後ぐったりした俺はベッドに引きずり込まれた。

end


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