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『庸介の想い』

「大丈夫か?」

「ん…ちょっとジンジンする」

 珠子の両耳には真新しいピアスが輝いている。

 二人は駅を出ると歩き始めた。

「なんかあったらすぐに病院行けよ」

「うんっ!早く庸ちゃんとお揃いのピアス着けたいな〜!沙希とお揃いのも早く着けたいっ!」

「俺とお揃いか〜」

 庸介の耳にもピアスが輝いている。

 だがbizarreのスカルがあしらわれたピアスはとても珠子には似合いそうもない。

 自分の持っている物の中で珠子とお揃いに出来る物がないかいくら思い出してみてもシルバーのゴツイ感じの物は小柄で可愛い珠子には不釣合いだ。

 俺とタマとさりげなくペアみたいなのがいいよな…。

 まったくのペアではなく少しデザインの違う感じ珠子には可愛らしく自分にはハードな感じ。

 自分のデザインしたアクセサリーを着ける珠子の顔を見てみたい。

 今までモデルしかなかった庸介の心の中にアクセサリーデザインへの興味が湧いた。

「…ちゃん!庸ちゃん!沙希に写メしたいから撮って!」

 珠子に呼びかけられているのに気付いてハッと顔を上げた。

 嬉しそうな顔をして携帯を差し出している。

「よし、耳出せよ」

「はいっ!」

 髪をかき上げて右耳を出した珠子の耳たぶをカシャと写真に収めて携帯を珠子に返した。

 鼻歌交じりで携帯を操作する珠子が微笑ましくて庸介は目尻を下げた。

「ターマ」

「なぁに?」

 胸の位置までしかない珠子の頭に手を乗せた。

 メールを送り終わった珠子は頭を後ろに倒して庸介の顔を見上げた。

「良かったな?」

「うん!」

 頭を撫でてやると嬉しそうな笑顔に変わる。

「今日は朝からずっと庸ちゃんと一緒だから嬉しいなぁ」

 まるで歌うような弾む珠子の声。

 はしゃいでいるのか頬をほんのりピンクに染めている珠子に胸がドキッと高鳴るのを感じた。

 駅から珠子の家へはあと5分も歩けば着いてしまう。

「庸ちゃん?」

 首を傾げて顔を覗きこまれて不覚にも下半身が熱くなるのを感じた。

 付き合い始めて一年を過ぎそろそろ先に進めたい。

 キスくらい…。

 口うるさい拓朗の気持ちは分かるが22歳の健全な男にとって好きな女を前に何も出来ないのは拷問のようなものだ。

「タマ…」

 いつもよりも想いのこもった声で名前を呼び珠子の顔に手を伸ばした。

 少し不思議そうな顔をしている珠子もぽやんとしていて可愛らしい。

「珠子ォォォォォッ!!」

 雰囲気をぶち壊すような唸り声が二人の間を切り裂いた。

「お兄ちゃん?」

 ドドドドッと世界新記録でも出しそうな勢いで拓朗がこっちに向かって走って来るのが見えた。

「ハァ…今日もおあずけかよ」

「なんか言った?」

「何でもないよ。さて…うるさいのが来たからさっさと行こうぜ」

 珠子の小さな肩に手を置くと歩き始めた。

 二人のファーストキスはもう少し後のお話。

end


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