メルマガ保管庫

『モンスターオマケ(二個目)』後編

「座って」

 シャワーを浴びてバスローブ姿の麻衣をダイニングテーブルに座らせた。

 陸も野菜ジュースを置くと向かい合うように座った。 

「気分は?」

「……さっきよりは」

「それで…覚えてる?」

 すっかり元気のない麻衣は俯いた。

 その姿を見て陸はこれ以上聞くのは無理かと諦める。

「今日は仕事行ける?」

 黙ったままの麻衣が頷く。

「朝ごはんは食べられる?」

 黙ったまま首を振る麻衣は野菜ジュースの入ったコップを握ったまま動かなくなってしまった。

 陸は立ち上がるとコップを放させて俯く麻衣を抱き上げた。

 麻衣の体が微かに震えているのが伝わってくる。

 そのまま寝室へ連れて行きベッドに腰を下ろすと麻衣を膝の上に抱えた。

「麻衣?何で泣いてるの?」

「…また…何かやっちゃったんだよね?」

 涙目の麻衣が顔を上げた。

 陸は即答出来ずに視線を逸らした。

(本当の事を言うべきか言わざるべきか…)

「陸?」

 涙目でシャツにしがみつかれた。

 こうされると陸は隠し通そうと思っていた気持ちが揺らいでしまいそうだ。

「どこまで覚えてるの?」

「…お店…行ったまでは…」

(肝心なとこだけ覚えてないか…)

 泣きべそをかく麻衣の背中に手を回してポンポンと叩いた。

「少ーし暴走しちゃっただけだよ。でも店には迷惑かけてないから大丈夫」

(うん…嘘は言ってない…ハズ)

 麻衣が陸の胸に手を付いて体を離した。

 まだ涙目の麻衣は心配そうな顔で陸の顔を覗き込んだ。

「大丈夫」

 陸は安心させるようにもう一度念を押すと麻衣は少しだけホッとした表情を見せた。

「でもね…一つだけ約束して?」

「なぁに?」

「俺のいない所では酔っ払うまで飲まないって約束して。会社の飲み会はビール三杯まで。ビール以外は飲まない。約束できる?」

 陸の真剣な表情に麻衣は少し表情を引き締めた。

「約束…する」

「ん。でも俺がいる時は飲んでもいいからね?」

「ううん…陸にも迷惑掛けちゃうからもう飲まない…」

 麻衣は神妙な顔つきだった。

 どうやら今回はかなり反省をしたらしい。

「俺は迷惑なんて思った事ないから大丈夫。それに酔って可愛い麻衣を独り占めしたいって言っても飲まない?」

「ほんとに迷惑じゃない?」

「当たり前でしょ。だから俺の前だけって約束して?」

「うん…約束する」

「チュッ…会社の近くまで送ってあげるから早く支度しておいで?」

 ようやく笑顔に戻った麻衣にキスをして時間のない事を促した。

(あぁ…何とか乗り切った)

 やっぱり酒を飲むなとは言えなかった。

 あんな麻衣を見れなくなるのはやはりもったいないし家でどんだけ酔っ払おうが吐こうが陸にはそっちの方がよっぽど安心出来た。

 自分の知らない所で酔った麻衣が誰かに介抱されてる姿や万が一トラブルに巻き込まれるなんて想像もしたくなかった。



 その日の夕方。

 重苦しい気持ちを抱えたまま陸は『CLUB ONE』のドアを開けた。

 よりによって今日は月二回あるミーティングの日。

「おはよう。陸」

 すでに全員顔を揃えていて一番初めに陸に気付いた誠が声を掛けた。

「うぃ……っす」

 逃げ出せるものなら逃げ出したい気持ちを押し殺して陸はいつものように一番奥のボックス席へと向かった。

 心なしか全員の口元が緩んでいるのはきっと気のせいじゃないよな…と更に気分は落ち込む。

「お前はここに座れ。No.1としてみんなの模範になってもらわないといけないからな」

 誠は目の前を通り過ぎる陸の腕を掴んで横に座らせた。

(あーもうマジで最悪…)

 ニヤける誠の横に座り全員の好奇の視線を浴びる30分間はまるで地獄だった。

「以上だが。何かあるか?」

 連絡事項を終えた誠がミーティングを締めようと全員を見渡した。

 誰も何も言わないのに誠は黙っている。

(あーくそっ…)

「昨日はすんませんでした!」

 陸が吐き捨てるように謝ると悠斗が笑いを堪えきれずに吹き出したのを陸はジロッと睨みつけた。

 それにつられるようにクスクス笑いが起きる。

「まぁな…二人が仲が良いのは俺達としても安心なわけだが…さすがに店の中はなぁ?」

「分かってます!って…アイツ覚えてないんで絶対言わないで下さいよ?」

「麻衣ちゃんを泣かすような事はしたくないけど…つい…ついポロッって事もあるかもなぁ?」

 誠に言葉に皆がウンウンと頷く。

「はいはい…もう回りくどいのはいいっすから。で…何が食べたいんだよ」

 陸は誠ではなく直接目の前にいるホスト達に声を掛けた。

「焼肉で!店は予約しときましたから!」

 皆を代表して答えた悠斗に「分かった」と短く返事をするとミーティングは解散した。

 立ち上がった誠は陸の肩をポンと叩いた。

「高いホテル代だなぁ?まぁこれに懲りて所構わず盛るなよ」

(俺が盛ったんじゃねぇーって!)

 とも言えず陸は苦虫を噛み潰したような顔でソファに寝転がった。

end



前へ | 次へ

コメントを書く * しおりを挟む

[戻る]
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -