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『モンスターオマケ(二個目)』前編

 ピーピピッ!ピーピピッ!ピー…

 いつもは鳴る前に止められるはずの6時のアラームが部屋に鳴り響いた。

「んー…」

 鳴り止まないアラームを止めたのは陸の手。

 麻衣の携帯を元に戻して起き上がりそして大きく溜め息を吐いた。

 ベッドには下着姿の麻衣がうつ伏せで寝ていて部屋の床には麻衣の服が散らかっている。

(やっぱり夢じゃない…)

 昨夜は店を出た後も散々だった。

 陸は目が覚めたら全部夢になってるかもしれないとわずかな希望を抱いて寝た。
 
 だが目の前の光景はやはり現実だと告げている。

 店のセキュリティをセットした陸は酔い潰れた麻衣を背負ってタクシーに乗せた。

 まず最悪だったのはやたらおしゃべりな運転手に当たったこと。

 ミラー越しのにやけた視線に腹が立った。

「お兄さん、彼女そんなになるまで飲ませでどーすんの〜?」

 相手をする気にもなれず無視を決め込んだ。

 どーするもどーかされたのはこっちの方だと心の中で悪態を吐いた。

 早く着けと思っていると隣で寝ていたはずの麻衣が急に目を覚ました。

 泥酔している人間が突然目を覚ますといい事は一つもない。

 もちろん麻衣も例外ではなかった。

「陸…吐ぐ…」

「ここでいいんで止めて下さい」

 運転手に釣りはいらないと言って一万円を渡した。

 まさに間一髪だった。

 降りて数分も経たないうちに麻衣は道端にしゃがみ込んだ。

 麻衣の背中を撫で落ち着くの待ってから近くのコンビニへ水を買いに行って戻るといたはずの麻衣の姿がない。

 焦って周りを見渡すと数十メートル先をフラフラ歩く麻衣の姿。

「麻衣!麻衣!ちゃんと待っててって言っただろ!」

 夜中に酔っ払いの女が一人で歩いてたら何をされるか分からない。

 陸は走って追い掛けると麻衣に向かって怒鳴った。

「陸〜〜〜っ!どごっいっでぇっ…だのぉ〜〜〜」

 麻衣の瞳から大粒の涙がボロボロ零れた。

 しがみつく麻衣の背中をさすった。

「おいでっぢゃぁ…ック…やだぁ…」

「コンビニ行くから待っててって言ったでしょ?」

(あーもうなんでそんな可愛いの)

 泣きじゃくる麻衣を落ち着くまで背中をさすり慰めた。

 しゃくり上げてた麻衣がようやく静かになった。

「麻衣?ほら…帰ろう?」

 胸に顔を埋める麻衣の肩を叩いて声を掛けた。

 だが返事がない。

 もう一度肩を叩いて声を掛けた。

「ん…」 

 短い返事それに急に頼りなく重くなった麻衣の体。

 マンションまで約1qをタクシーを掴まえるのも面倒で陸は寝ている麻衣を背負って帰る事にした。

 起きる気配のない麻衣を背負いようやく部屋に着くと陸は麻衣を背負ったままベッドに倒れこんだ。

「ハァハァ…ッ」

 麻衣の為に買った温くなった水を半分くらいまで一気に飲み干した。

「麻衣、シャワーは?」

「んん〜〜」

 モゾモゾと動く麻衣は服を脱ぎ始めそのままベッドに潜り込んだ。

 陸は軽くシャワーを浴びてすぐに眠りについた。

 ここまでが昨夜の記憶。

「麻衣、麻衣…朝だよ」

 まだ眠っている麻衣の肩を揺らした。

 うつ伏せだった麻衣が体の向きを変えて陸の顔を見た。

 眉間に皺を寄せているうえに顔がむくんでいる。

「り…く?」

「もう6時過ぎてるよ。今日も仕事でしょ?」

「ん〜〜〜〜」

 返事をしながら眉間の皺が濃くなった。

(完璧二日酔いだな)

 かなり長い時間を掛けて麻衣が体を起こした。

 体を起こしてからも頭を下げたまま微動だにせずにジッと何かに耐えているみたいだ。

「陸…私…って…?」

 麻衣は自分の格好に気付いたのか顔を上げた。

「話は後で。とりあえずシャワー浴びておいで」

 ノロノロと立ち上がり風呂場へ向かう麻衣の姿を見て陸は溜め息を吐いた。

 
 続く。


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