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『ある日の3分間』

 ども…陸です。

 たった今…麻衣が家を出て行きました。

 あ…そういう意味じゃなくて実家に帰りました。

 いや…だから…別れたとかケンカしたわけじゃなくて日曜日だから久し振りに実家に行ってくると言って出て行ったんだけど…。

「俺は?」

 って聞いたのがいけなかったのか?

「陸はいいよ。たまには一人でのんびりしてていいよ」

 と笑顔で返されて朝から出て行った…たった今の出来事なんだけどさ。

 えーっと…俺は麻衣といてストレス感じた事もないし一緒に居たいって思うけど…。

 女って…たまには一人になりたいとかあんの?

 それとも実家に帰る時は俺は居ない方がいいとか…?

 でも俺達結婚するんだし行けるなら一緒に行った方がいいと思うんだけどそうじゃねぇのかなぁ…。

 ってわけで部屋に一人置いて行かれてるんだけど…。

 この部屋ってこんなに広いっけ。

 とかって背中に哀愁漂わせてみたり…。
 
 あーもう!

 ウジウジしててもしょーがねぇしちょっと行ってくる!




 陸は財布と携帯と鍵を掴むと部屋を飛び出した。

 エレベーターのドアが閉まり掛けるのが見えた陸はスパートをかけて間一髪ドアの隙間に手を滑り込ませた。

「陸っ!?」

 麻衣は慌てて“開”ボタンを連打する。

 ゆっくりとドアが両側に開くと陸はエレベーターの中に入って壁にもたれた。

「どーしたの!?」

「俺も行っちゃだめ?」

「え?」

「俺も一緒に行ったら迷惑?」

 膝に手を置いて息を整えながら陸が顔を上げた。

 エレベーターは扉が閉まりゆっくりと降下を始める。

「迷惑じゃないけど…夕方には帰って来るし陸もたまには好きな事とかしてたらいいのに…」

「じゃあ…俺も一緒に行く」

「でも…いいの?」

「俺は麻衣と一緒にいた方が楽しいしって週末くらい一緒に居たいって思うのはダメ?」

 陸は麻衣の肩にポフッと顔を乗せた。

 驚いてた麻衣が嬉しそうに陸の頭に顔を寄せる。

「嬉しい…本当は一緒に行きたいって思ってたの」

 麻衣が恥ずかしそうに打ち明ける。

「これからは遠慮しないで?」

 陸は顔を上げて麻衣にキスをする。

 唇を重ねたまま指を絡めてしっかりと手を繋ぐ。
 
 二人が離れると同時にエレベーターのドアが開き手を繋いだ二人は駐車場へ続くドアへと歩き出す。

「なんか買って行く?」

「んーケーキ…あーでも暑くなってきたし水羊羹とかたまには和菓子!」

「じゃあ…いつもんとこでいいよな。俺、あそこのシナモンの匂いのする饅頭好き」

「それじゃソレも買っていこうね」

 楽しそうに言葉を交わし時々顔を見合わせ微笑み合う。

 ある日の二人の何気ないひとこま。


end



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