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『キス・ミー・ダーリン』

「…ゃん、…ちゃん」

 なんだ?誰かが呼んでる声がする。

 ようやく眠りについたのに耳元で聞こえる声に呼び戻される。

「…ちゃん、庸ちゃん」

 その可愛らしい声は俺を眠りの淵から優しく引き上げた。

 目を開けて最初に飛び込んで来たのは小さな鼻に小さな口と奥二重の可愛い瞳。

 前髪は眉が少し隠れるくらいで肩に付くくらいのゆるいクセのある髪を両耳の下辺りでしばっている。

(まるで小学生みたいだな)

 珠子と目が合うと自然と笑顔になった。

「庸ちゃん、起きた〜?」

「タマ…お前っ…起きた〜?って今何時だと思ってんだよ」

「何時ってーもう10時だよ?」

 部屋の目覚まし時計を指差している。

 もう10時??さっき眠ったと思ったのに…。

 その割には体に疲れが残っている感じもなく体を起こしてもいつもより軽い。

「タマ、学校は?」

「何言ってるの〜?今日は日曜日だよ!」

「そうか。なんか曜日の感覚がねーな」

「庸ちゃんは働きすぎなんだよ!」

 ベッドに頬杖をついた珠子はニコニコしながら庸介の顔を見上げている。

 タバコを取ろうと珠子の頭の上から手を伸ばすと珠子の胸元が目に飛び込んだ。

 胸の大きく開いたキャミソールを着ていて真上から白いブラに包まれた小さな胸の膨らみが見える。

 掴んだタバコを落としそうになりながら慌てて視線を逸らした。

 なんであんな胸の開いた服着てんだよ…。

 今まで幼い服ばかり着ていたのにいきなり大人っぽい服装にドギマギしながらタバコを口に咥えた。

 カシンッカシンッ…

 火を点けようとするが何度やってもライターが点かない。

(チッ…何やってんだよ。格好悪ぃな…)

「貸して?私が点けてあげるね」

 珠子は庸介の手からライターを抜き取ると両手で包み込んで火を点けた。

 一回でライターに火が灯ると珠子は膝立ちになってライターを差し出した。

「あ…あぁ…悪いな」

 庸介は火を点けようと前屈みになった。

 ライターの火を見ながら顔を近づけるとその向こうの珠子の姿が目に入る。

 前屈みになって両手でライターを持っているせいか谷間が出来ていた。

 それよりも庸介を驚かせたのは緩いのか隙間の出来たブラの間から覗く肌よりも少しピンクがかった部分。

(何だ!?ちょっと待てよっ…なんで見えてんだよ!)

 もうタバコを吸うどころではなくなってしまった。

「あー…やっぱりタバコいいや。起きたばっかだしな…うん…」

「変なのー」

 首を傾げる珠子からライターを受け取りながら咥えていたタバコを箱に戻した。

(今日のタマは絶対変…だよな?)

 胸元にレースのついたピンク色のキャミソールに白の半袖のパーカーを羽織っている。

 首には誕生日にプレゼントしたネックレスが輝いている。

 唇はグロスを塗っているのかプルプルと艶っぽい。

(これ以上その姿を見ているのは目の毒だな)

「タマ…寒くないのか?」

「ん?全然寒くないよ?」

「で、でも…あれだ…そのぉ…風邪引くといけねぇからそこのシャツでも羽織っとけ」

「んー大丈夫だけどなー分かったよぉー」

 珠子が立ち上がるのを見てホッと息を吐いた。

 いつもよりも可愛い珠子を目の前にしてどこまで自分の理性が持ち堪えられるか自信がない。

 今はこうするしかない。

「やっぱり大きいねー?」

 その声に顔を上げて珠子を見た途端思わず吹き出しそうになった。

 脱ぎっぱなしにしていた俺の長袖のシャツが珠子をすっぽりと覆っている。

 ミニスカートも隠してしまいそれはまるでシャツ一枚だけ着ているようにしか見えない。

(エ、エロッ…。これじゃあ逆効果じゃねぇか…)

 目のやり場に困って仕方がなくその辺にあった雑誌を手にとってペラペラとめくった。

 ベッドの脇に戻って来た珠子がペタンと床に座った。

「んふふ…庸ちゃんの匂いがするよぉ」

 雑誌を見るフリをしながらチラッと珠子を見た。

 庸介の位置からは顔まで見えないが膝を曲げてペタンと座った珠子の太ももと膝がしっかり見える。

 シャツの裾から伸びる柔らかそうな白い太ももと少し間の開いた膝はグラビアなんか比べ物にならなかった。

(タク…俺約束守れねぇかも)

 大切な親友との約束も反故にしても構わないとさえ思えた。

「タ、タマ…今日は何か用事があったのか?」

 自分でも不自然なほど声が硬くなっているのが分かる。

 珠子の姿を見てここまでの昂りを感じたのは初めてだった。

「あのねー庸ちゃんに会いたかったの!」

 その声はまるで鈴が弾むような心地良い響きのある可愛い声そして屈託のない笑顔。

 思わず唾を飲み込んだ。

「でも庸ちゃんはお仕事が忙しくて疲れてるから…今日は添い寝してあげるねっ」

 珠子はピョンとベッドの上に上がると布団の中に入り込んだ。

(待て…絶対無理…我慢とかもうそういう話じゃねぇって)

 服越しでもしっかり伝わる珠子の体温は庸介の体温を上昇させた。

「お、お前…いいのか?」

「何が?」

「だから…その…」

 これじゃあどっちが年上なんだか分からない。

 まるで初めての時みたいに…いや初めての時以上に緊張している。

「いいよ。珠子はもう子供じゃないんだよ?」

 珠子が恥ずかしそうに微笑む。

「いや…だけど…」

 庸介の頭の中には拓朗の怒った顔がちらつく。

「珠子の事嫌い?」

「好き…だけどそうじゃなくてさ」

「庸ちゃんに全部あげたいの」

「タ、タマ…」

「珠子の初めてのキスを庸ちゃんにあげる」

 珠子は目を閉じるとゆっくりと顔を近づけてくる。

 庸介の喉がゴクッと鳴った。

 濡れたピンク色の唇に吸い寄せられていく。

「…ッ…ダメだ!ダメだっ!タクと約束した!」

 わずかな理性を振り絞って珠子の体を押し返した。

「お兄ちゃんは関係ないよ。庸ちゃんの彼女は珠子だもん」

 そう言って微笑んだ珠子が庸介の体をトンッと押した。

 庸介の体がベッドの上に横たわると珠子は着ていたシャツを脱いでキャミソール一枚で覆いかぶさってきた。

「庸ちゃん…」

「タマ!…珠子!ダメだ!なっ?慌てることないだろ?」

「どうして?そんなに魅力ない?」

「そうじゃない…!まだ早い…」

「そんな事ないよ?もう体だって…」

 珠子はキャミソールの裾を持って脱ごうと持ち上げた。

 白い肌と可愛らしいへそが庸介の目に飛び込んで来る。

「ダメだっ!よせっ…そんな事してなくても…タマ!ダメだっ…タクに怒られる!」


「…い、おいっ!おいっ起きろっ!」

「タマッ!待て脱ぐなーーっ!」

 庸介は大声を上げながら飛び起きた。

「おい…」

 声のほうに顔を向けるとそこには鬼のような顔をした拓朗が立っている。

「あれ?」

「あれ?…じゃねぇよ!てめぇ勝手に酔いつぶれてどんな夢見てんだよっ!!」

 拓朗が青筋を立てて怒鳴り立てている。

 部屋を見渡すが珠子の姿はない。

 時計に手を伸ばして時間を確認するともうすぐ夜中の一時になろうとしている。

「夢…だったのか」

 ドッと体から力が抜けてボフッとベッドへ倒れこむ。

「夢だからって許さねぇぞ!おいっ!珠子に何をしたんだ!俺の可愛い珠子に手を出したんじゃねぇだろうな??」

 拓朗が寝ている庸介の体を激しく揺すった。

 久し振りにゆっくりする時間が出来て拓朗と部屋で飲んでいた事を思い出した。

 数時間前までは確かに珠子もこの部屋にいたがその時の格好は着古したTシャツにハーフパンツと何とも色気のない格好だった。

(あーくっそぉ…夢か。そうだよな夢に決まってるよな)

 よくよく考えてみたら珠子があんな風に自分を誘えるわけがない。

 拓朗に体を揺すられながらがっくりとうな垂れる。

「聞いてんのか?珠子の何を脱がせたっ!珠子の…珠子の…珠子の裸を見たのかぁぁぁ…」

 拓朗は怒鳴っていたかと思うと今度は激しい嗚咽を漏らしながら泣き始めた。

「うるせぇぞ。酔っ払い」

 庸介は枕を拓朗に向かって投げつけた。

「珠子ォー珠子ォッッッ!お兄ちゃんが守ってやるからなぁぁぁ」

 拓朗は枕を抱きしめながらオイオイ泣いている。

 拓朗の泣き声から逃れるように布団を頭まですっぽりと被った。

(夢なら我慢すんじゃなかった…)

 残ったのは激しい後悔と火照った体とさらにレベルアップした己の理性だった。

end



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