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『仏の顔も…』中編

「お昼食べたいものある?」

 テレビ画面に向かう二人の後ろから麻衣が声を掛けた。

「何でもいいよー」

「何でも構わないです…って陸さん!ちょっ…やっべぇ!」

「バッカ!!何やられそうになってんだよっ!」

 ゲームに夢中の二人は振り向きもせずに返事をした。

 麻衣はキッチンへと引き返す。

「ご飯出来たよー」

 すぐに二人を呼ぶ声が聞こえた。

「分かったー」

「あぁ…陸さん!早く来てくれないと俺死にますって!」

「ぜってぇ死ぬなよ!ここで死んだら意味ねぇっつーの!」

 ゲームもクライマックスに入り後はラスボスを倒すだけになっていた。

(まずは悠斗のHPを回復させてっと…)

 陸はゲームに夢中になっていた。

 そして…5分後。

「よっしゃーー!」

「うっはー…これマジ面白いっすね!」

「だろだろ?飯食ったらまたやろうぜ!」

 見事ラスボスを倒した二人が子供のようにはしゃぎながら麻衣の待つダイニングへと向かった。

「麻衣〜!おっ待た……」

 テーブルの上を見た陸の顔が強張った。

 続いて入ってきた悠斗も陸の隣に立つと動かなくなってしまった。

「え…えっと…麻衣?」

「何でもいいんでしょ?」

(し、しまったぁ…やっぱりまだ怒ってる…)

 悠斗の来訪で麻衣の機嫌は直ったものとばかり思っていただけにショックが大きい。

 それよりも激しくショックを受けているのは悠斗だった。

 ダイニングのテーブルに並べられたカップ麺。

 うどんからラーメン…そしてパスタまで各種勢揃いといった感じで並べられている。

「り、陸さん…これって…」

「悠斗…おまえ何とかしろ…」

「はぁ!?何とかしろって…何をですかぁ!」

 ムッとした表情で座る麻衣の前では二人はひそひそと声を潜めて言葉を交わしあった。

 事情を説明していない悠斗にはこの場を任せるのはさすがに悪いと思った陸が一歩踏み出した。

「ま、麻衣…せっかく悠斗も来てくれたんだから麻衣の手料理食べさせてやれよ?…悠斗も麻衣の料理食べたいよな?な?」

「え?え、えぇ…もちろんです!」

 目配せをされて悠斗は話を合わせる。

 だが麻衣はジロッと睨んだだけで返事もしない。

(一体いつまで怒ってれば気が済むんだ!)

 ずっと下手に出ていた陸だったがもう我慢も限界だった。

「麻衣!いい加減にしろよ!一週間もカップラーメンってどういうつもりだよ!」

 とうとう陸は麻衣に立ち向かう決意をした。

 けれど麻衣はフンッと鼻を鳴らして横を向いた。

 またも二人の揉め事に巻き込まれてしまった悠斗は今すぐに逃げ出したかった。

 だがそういうわけにもいかずここは仲裁役を引き受けるしかないと覚悟を決めた。

「ちょ、ちょっと…陸さんどういう事ですか…」

「お前も何とか言ってやれ!」

「何とかって…一体何があったんですか?」

「そんなの俺が聞きてぇよ。悠斗が来れば飯作ると思ったのに…」

 とにかく何が原因か探ろうとした悠斗は陸の言葉を聞いてがっくりとうな垂れる。

 何のために呼ばれたのか分かってしまった。

 このままきれいな幻想を抱いたまま終わらせてくれればいいのに神様は意地悪だと悠斗は首を振った。

「…俺をダシにしましたね?」

「お前だって…麻衣の手料理食いたいだろうが」

 そう言われてはさすがに返す言葉もない。

 二人を無視していた麻衣が立ち上がってテーブルの上のカップ麺を片付け始めた。

「麻衣、ちょっと待てよ」

「食べないなら片付けるから」

「今日は…ど○べぇにする…」

「えぇっ!?怒ってるくせにカップ麺は選ぶんすか?」

「だって腹減ってるし。お前も好きなの選べよー」

「じゃあ…おれはどれにしようかな…」

 まるでコンビニのような品揃えにワクワクしながら品定めを始めた。

 悠斗はたくさんある中から一つ選び出して手に取った。

 陸も手に持ってペリペリと包装を破り始めた。

「湯沸かすかー」

 二人仲良くカップ麺を手にキッチンへと歩き出した。

 そこでようやく我に返った悠斗が足を止めた。

「陸さん!麻衣さんも!いい加減にして下さいっ!」

 悠斗は我慢出来ずに声を張り上げた。

 当事者の二人はバツの悪そうな顔をして視線を逸らす。

「一体何が原因なんですか?」

「さぁ…麻衣に聞いても教えてくんねーもん」

 悠斗は先に陸に聞いたが口を尖らせて拗ねている。

 麻衣に聞こうにも端から答える気などなさそうな顔をしている。

「…なんで俺がこんな目に」

 泣きたくなりながら呟いた。

 重苦しい雰囲気が三人を包み込む。

「もういいよ。俺がコレ食えばいいんだしさ」

 重い沈黙を先に破ったのは陸だった。

 陸は手に持ったカップ麺を掲げて何でもないように笑いながらキッチンへ向かう。

 悠斗は振り返って麻衣を見た。

 麻衣は何も言わずに別の方向を見てジッとしている。

「麻衣さん…何があったか俺は分からないっすけど…あんなのばっかり食べてたら体壊しちゃいますよ!ただでさえ俺達みたいなホストは酒ばっか飲んで…」

 ボコッ…ボコボコボコ…

 麻衣の持っていたカップ麺が音を立てて床に散らばった。

 麻衣が両手で顔を覆った。

「麻、麻衣…さん」

「麻衣ッ!?」

 陸が慌てて戻って来て麻衣の肩を抱き寄せて顔を覗き込む。

 麻衣は陸の手を振り払うようにイヤイヤと体を揺すった。

「麻衣さん…なんかすみません…俺が余計な事言ったせいですよね?」

 悠斗は麻衣を傷つけてしまったと落ち込み何度も頭を下げた。



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