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『アイアイ傘◇貴俊×祐二』←BL

 家の最寄り駅に着くと雨が降っていた。

 改札を出て傘を手にする俺の横で貴俊が立ち尽くしている。

「…お前傘持ってねぇの?」

「あぁ…うん。持って来なかったんだよね」

(珍しい事もあるもんだ)

 いつもなら貴俊が持っているのが当たり前だった。

「そんなに降ってないし別にいいよ」

 貴俊は雨を気にする事なく歩き始めた。

「お、おいっ…風邪引いたらどーすんだよ」

 祐二は慌てて追い掛ける。

「これくらい大丈夫だよ」

「大丈夫じゃねぇよ。これ使えよ」

 祐二は乱暴に傘を差し出した。

「それじゃあ祐二が濡れるだろ?」

「俺は風邪なんか引かねぇんだよ!」

 そう言いながらグイグイ傘を押し付ける。

 貴俊は諦めたのか大人しく傘を受け取った。

「じゃあ先帰るからな!」

 雨の中を走り出そうとする祐二を貴俊は腕を掴んで引き止めた。

「一緒に入ればいいんじゃない?」

 立ち止まった祐二が怪訝な顔で振り返る。

 そう提案する貴俊が爽やかな笑顔を浮かべているのを見て危うく傘の中に入ろうとするのを思いとどまった。

 俺とコイツが一つの傘って事は…思い浮かべたイメージは男同士のアイアイ傘。

(ありえない!ありえない!ありえないーーっ!)

 想像を振り払うように頭を激しく左右に振った。

「俺は走って帰る!」

 祐二は貴俊の手を振り払おうとしたが強く掴まれて離れない。

「それなら傘は祐二が使って」

 貴俊が傘を祐二に握らせようとする。

「バカ!お前が使えっつってんだろ!」

 傘を押し返す。

 しばらくそのやり取りを繰り返していたが周りからクスクスと笑われて注目を浴びている事に気が付いた。

「祐二…どうする?」

 注目を浴びる恥ずかしさから逃れるために仕方がなく一つの傘で帰る事を承諾するしかなかった。

(男同士でアイアイ傘ってどうなんだよ…)

 周りがどんな風に見てるのか気になって顔を上げる事も出来ない。

「祐二濡れちゃうよ。もっとこっちに寄りなよ」

 少しでも離れて歩こうとする度に貴俊が肩を抱こうとするから離れる事も出来ず体が触れる位置を歩くしかない。

 服を通して伝わる貴俊の体温にドキドキしてその部分だけがやけに熱く感じる。

 まるで罰ゲームのような帰り道に耐えてようやく家に着いた。

「お礼に今日の英語の宿題見せようか?」

「当たり前だ!」

 こんな恥ずかしい思いをさせられたんだから当然だとばかりに祐二は貴俊よりも先に貴俊の部屋に入る。

 雨で湿ったブレザーを脱ぎ捨ててベッドに横になると貴俊が部屋に入って来た。

「ノート鞄の中にあるよ」

「もうやってあんのか!?」

(一体いつやってんだよ)

 祐二が脱ぎ捨てたブレザーをハンガーに掛ける貴俊を信じられないという顔で見てから鞄に手を伸ばした。

 鞄の中からノートを取り出した時にふとある物が目に入った。

「…おい」

「どうした?」

 ブレザーを脱いだ貴俊が隣に来て座った。

「何だよコレ!!!」

 怒鳴りながら取り出したのは紺色の折りたたみ傘。

「あれー入ってたんだ」

 棒読みのセリフに満面の笑み。

(ぜってー嘘!くっそ〜〜〜)

 まんまと騙された自分にも騙した貴俊にも腹が立った。

「帰るっ!!」

「今日って数学の宿題もあったよね?」

 勢いよく立ち上がろうとする祐二に向かって貴俊が微笑んだ。

 腰を浮かしかけた祐二がプルプルと体を震わせていたが諦めたように腰を下ろした。

「お前ムカツク!」

「嫌いになった?」

「〜〜〜〜〜っ!!」

 声にならない声を上げる祐二。

 ここで嘘でも嫌いと言えない自分に女々しいと思うけれどどうしても口に出来ない。

「ごめん。そんなに怒るならもうしないから」

 そう言って貴俊はチュッと軽くキスをする。

(別にそこまで怒ってるわけじゃなくて俺はただ…)

 思った事を口にするのは簡単なようで難しい。

「ひ、人に見られないとこならいいんじゃねぇの?」

 それで気持ちが伝わったかどうかは分からないけれど祐二にとってはそれが精一杯。

 俯いた祐二には見えていなかったがその時の貴俊は嬉しそうに微笑んでいた。

 end



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