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『初めての夜』
記憶を隅から隅まで辿っても欲しい物を手に入れられなかった事はない。
手に入れる為に苦労した記憶もない。
当然女もだ。
それはずば抜けて才能に長けているわけでも魔法使いでも全知全能の神というわけでもない。
たまたま如月という家に生まれそしてたまたま人を惹きつける容姿を持っていたというだけの話。
だからといって自惚れているわけではないけれど…。
(どうして俺の思い通りにならない!)
今までの女はキスの一つもすればバカみたいに夢中になった。
それなのに頬を染めるどころか怒りをぶつけた上に朝一から辞表を突きつけてきた。
(何が気に入らない…)
こんな面倒でガキくさい女なんか相手にする事なんかない、いい女なんて他に山ほどいる。
そう思ってもどうしても割り切れない。
今まで何不自由なく暮らして来て初めて心の底から欲しいと求めている。
けれど女に不自由しなかった和真は女の口説き方が分からない。
「俺じゃ不満か?」
寝顔を覗き込みながら声に出して呟いた。
いい雰囲気のバーへ連れてって甘い酒でも飲ませながら少し話をするだけのつもりだった。
そう本当にそのつもりだった。
けれど都合の良い事にというか予想通りというか…バーのカウンターに座らされて気後れ気味のかのこを見ると気が変わった。
(せめてカクテルの種類を知ってるか酒に強かったらな…)
“ミモザ”を注文するつもりが口から出た言葉は“クラッシック”
そして何も知らないのをいいことにもう一杯飲ませた。
酔いつぶれてしまったかのこをタクシーに乗せて部屋に連れて来たのがほんの数分前。
赤い顔をして眠るかのこの頬を手で撫でると上着のボタンに伸ばしかけていた手を止めた。
さすがに酔っている女を抱くような趣味はない。
和真はもう一度かのこの顔を覗き込んだ。
幼い顔立ちは寝顔になるとさらに幼さを際立たせた。
(可愛い子猫に躾…ってのも悪くないか)
和真はニヤリとして指をボタンにかけて手際よく脱がせるとかのこを下着姿にした。
額にかかる髪を手でよけながら軽くキスをして軽く開いている唇にもキスをした。
はっきりしなかった感情がようやく自分の中で結論が出た。
こんなにムキになるのは小娘一人思うように出来ない屈辱からじゃないかと考えていた。
けれど体温を感じるほど近くに居て気付いた。
どんな事をしても手に入れたい。
自分の物にしたい。
他の男には渡したくない。
自分以外の男の前で乱れるかのこの姿を想像したくない。
「お前は俺を好きになればいい…」
まるで呪文のように呟くとかのこの横に体を滑り込ませた。
起きる気配のないかのこを腕の中に抱き寄せただけで体が熱くなるのを感じた。
初めて感じる激しい欲情を抑えながら和真は口元に微笑を浮かべて目を閉じた。
(お前を抱くのは俺だけだ)
end
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