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『ゲーム』

「さすがにいい部屋ねぇ」

 部屋に入ると美咲は真っ直ぐ窓際まで歩いて行った。

 高層階から眺める夜景はまるで宝石箱をひっくり返したようにキラキラと輝いていた。

 まるで全てを手に入れたような気分にさえさせてくれる。

「そうだろ?」

 誠は後ろから近付くと外を見下ろす美咲を抱きしめた。

 美咲の香水が鼻をくすぐる。

 たまらずうなじに唇を寄せて何度もキスをした。

「ちょっと、やめてよ…」

 美咲は腕の中から逃れようと身体を捩った。

 だが誠は構わず手をスカートの中に差し込んで強引にたくし上げようとする。

 美咲の手が阻もうと上から強く押さえつける。

「ちょっとぉ!」

 空いているもう片方の手が服の上から美咲の胸を強く掴む。

「いい加減にしてよっ!!」

 美咲が甲高い声で怒鳴った。

 面食らった誠が手を離すと美咲はすぐに離れて乱れた衣服を直した。

 チッ…焦り過ぎたか。

 窓際にもたれた誠がくしゃくしゃと頭を掻いた。

「子供じゃないんだから盛らないでよね」

 ソファに座って煙草に火を点けた美咲が誠を見上げて笑う。

 全部お見通しかよ。

 苦笑いを浮かべた誠も向かい合うように腰を下ろした。

「麻衣達の事で話があるんでしょ?」

 呼び出す口実だったんだけどな。

「あ…あぁ。麻衣ちゃんの様子どぉ?」

 二人がケンカしてかなり経つのに仲直りの気配を見せないのはさすがに心配にはなっている。

「辛そう。何か考えてるけど答えが出ない…って感じ」

「あいつもそんな感じだな。いつも通りにしてるつもりだろうけど心をどこかに置いてきたみたいな感じだな」

 二人を重苦しい空気が包む。

 俺、何やってんだ。

 せっかくこんな部屋取って好きな女と居るっていうのにしんみり恋愛相談か?

 煙草を細く長い指も艶っぽい唇もあの細い腰も…。

 美咲の姿を眺めていた誠が立ち上がった。

 煙草を取り上げて灰皿に押し付けると強引に唇を奪った。

 苦い煙草の味しかしない口腔を貪るように舌を差し入れて絡ませる。

「んっ…んむッ」

 美咲の手が誠を押し返すように胸を強く押す。

 だが時間が経つにつれて力が弱まりただ触れているだけになった。

「美咲」

 唇を離すと潤んだ美咲の瞳が見上げる。

 誠は美咲の手を掴むと強く引っ張り上げた。

 バランスを崩した美咲が誠の胸の中に倒れこむと逃がさないとばかりに強く抱き寄せた。

「お前じゃなきゃここまで盛らねぇよ」

 ニヤリと誠が笑う。

「誰がホストの言葉なんか真に受けるのよ」

 美咲がサラッと笑いながら切り捨てた。

「じゃあなんでホストクラブ通いしてんだよ」

「楽しいからに決まってるでしょ。ゲームみたいなものよ」

「ゲームに熱くなったら火傷するとでも?」

 誠の言葉に美咲がクスクスと笑う。

「さぁ?私、ゲームに熱くなった事ないから」

 難攻不落なゲームほど攻略するのが面白いってか?

 誠は背筋がゾクゾクとした。

「その言葉覚えとけよ」

 お前の事必ず落としてやるよ。

「楽しませてね?」

 受けて立つ美咲がニヤリと笑うと濡れている唇に噛み付くようにキスをした。

 本気になったら負けだなんて言わせない。

 お前も本気にさせて二人でいけるところまでいってやるさ。

 そのまま二人はもつれるようにしてベッドの上に倒れ込んだ。

「間違いなく今夜は楽しませてくれるんでしょ?」

 美咲が誠を跨いで体を起こした。

 細い指がゆっくりと誠のシャツのボタンを外していく。

「聞くまでもねぇだろ」

 美咲ははだけたシャツの隙間から鍛えられた胸板をなぞるように指を這わせていく。

 誠は美咲の太ももに手を置いた。

 二人の視線が絡む。

「ねぇ…覚えてる?出会った頃のこと」

「昔話は嫌いじゃなかったのか?」

 誠は皮肉を込めて返した。

 美咲はジャケットを脱ぎながらクスッと笑う。

「そうね。でも誠が忘れてるみたいだから」

 脱いだジャケットが美咲の手から離れてベッドの横に落ちた。

 わずかな沈黙が流れる。

「忘れるわけねぇだろ。お前みたいな女初めてだったからな」

 あんな事面と向かって言う女がいるとは思いもしなかったな。

 誠はその時の事を思い出してクッと喉の奥で笑った。

「男はおもちゃ…退屈しのぎ。…だろ?」

「そう。退屈しのぎのおもちゃに本気になるなんてありえないの」

 ほんと頑なだな。

 その退屈しのぎと何年遊んでるのか分かってんのか?

「退屈させた事なんかねぇだろ?」

 誠は体を入れ替えて美咲を押し倒した。

 長い髪がベッドのシーツの上に広がる。

「今のところはね」

「今のところは…か。まぁいいさ、おもちゃにも…」

 美咲が誠の唇を指で押さえて会話を遮った。

「お喋りはここまで」

 妖しく誘うように開く唇に誠は舌を挿し入れた。

 おもちゃでも愛着が湧くと捨てられないって事気付かねぇフリしてるだけなんだろ?

 認めさせてやるよ。

 お前には俺が必要だってことをな。



end



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