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『寝言は寝てから』

 何だこれ…。

 おいおい、ちょっと待てよ。

 確かに、そりゃ俺がアレだったかもしれないけど…。

 でもなんつーか不可抗力っつーか…。

「麻ー衣、麻衣ちゃーん」

「………」

 おいおい…無視して携帯いじるのか?

 ピピッピピッ

 枕元に置いてある携帯がメールの着信を知らせた。

 チッ…タイミングの悪い…。

 今携帯触ろうもんなら怒りが倍増どころか…俺殺されるかもしれない。

「ねぇ、麻衣?ごめんって」

 ベッドの横で仁王立ちになっている麻衣を見上げた。

 眉間に皺を寄せて既に人一人殺して来たような顔をしている。

 あぁ…ヤバイ。

 いや、ほんと、これはマズイって。

「ほら、でもさ…なんて言うか仕方がないよね?」

 麻衣がギロッと睨むと顎で携帯を指し示した。

「え…な、なに…携帯?いいよ。たいした用じゃないし、どうせうっとうしいメールだろうし」

 麻衣の表情がいっそう険しくなった。

 麻衣がもう一度顎で携帯を指し示す。

 な、何だよ…。

 携帯がどうしたんだよ。

 陸がビクビクしながら携帯に手を伸ばしている間にも麻衣は携帯を触っている。

 ピピッピピッ

 再び携帯が着信を知らせる。

 あぁっ!!!もぅっ!!

 誰だよこんなにメール送ってくる奴っ!

 陸は携帯を開いてメールを確認した。

 一通目
【同じ空気吸えてるだけでもありがたいと思え】

 二通目
【うっとうしいメールで悪かったわね】

 二通とも目の前にいる麻衣からだった。

「あぁ…怖ぇ…」

 ピピッピピッ

 思わず呟いたその数秒後に携帯が鳴った。

【そんなに怖いなら桜子ちゃんにでも助けてもらえば?】

 ヒィィィッ!!

「麻、麻衣?だ、だから…俺だって無意識だったんだし、つーか顔も分かんないし、ね?」

 ピピッピピッ

【無意識で名前呼ぶほど親しいのかしらね】

「いや…違っ!だから…」

「麻衣さん、大丈夫ですよ。俺がいるじゃないですか」

「悠斗くん…」

 後ろから現れた悠斗が麻衣の肩を抱いた。

 麻衣は悠斗にすがりつくように体を寄せて胸に顔を埋めている。

「悠斗っ!てんめぇっ!!」

「何ですか。麻衣さんがいるにも関わらず他の女の名前を呼ぶだなんて信じられないっすよ」

「だから聞けって!寝言なんだから…って何でお前が俺の部屋にいるんだよっ!」

「何言ってるんですか、今日からここは俺と麻衣さんの愛の巣、そっちこそいつまでも何してるんすか」

 悠斗、麻衣?

 おいおい…何だよ…コレ。

 寝言で他の名前呼んだとか言われたって…。

「本当にひどいの。起こしてくれって言うから私は起こしただけなのに…」

 麻衣がグスグスと悠斗の胸に泣きながら縋り付いている。

「そしたら“桜子ーお前も一緒に寝ろよー。ほらぁーこっちこいよー”って私の手を引っ張ったの!」

「いやっ、嘘だって!寝言とかでそんなにはっきり言うわけないじゃん!」

「この期に及んで往生際が悪いっすね。行こう麻衣さん」

「えぇ…悠斗くん。」

 二人は肩を寄せ合うようにして部屋を出て行く。

「待ってっ!」

「麻衣ッ!待って!!麻衣ッ!行かないでー!!」

「桜子なんてほんとに知らないんだーーッ!!」

「ハァッハァッハァッ…」

 あれっ…。

 なんだ?

 目の前には見慣れた寝室の天井と不思議そうな麻衣の顔。

「陸?大丈夫?」

「え?あれっ…俺…」

 起き上がるとパジャマが汗でベタベタになっている。

「すごいうなされてたけど…行けそう?」

 うなされてた…?

 ってことはあれは夢…か?

 陸はホーーッと長いため息を吐いた。

「どうしたの?」

 麻衣が不思議そうな顔で首を傾げている。

「あ、いやっ…何でもないよ。…で、行けそうって?」

「もう忘れたの?今日はお店のみんなとバーベキュー行くって言ったでしょ?」

「あ、あぁ…そうだったな。じゃあ俺も着替えて準備するよ」

 陸はぐったりしている体を起こした。

 あぁ…夢で良かった。

 つーか寝言で他の女の名前とか言われても覚えてねーし…。

 だいたい桜子って誰だよ!

 あーマジで気分悪ぃ…シャワーでも浴びてスッキリしてくるか。

「麻衣さーん、荷物ってこれだけっすかー?」

 リビングの方から悠斗の声が聞こえた。

 おいおい…なんで悠斗がいるんだよ。

 これも実は夢なのか?それとも夢の続きなのか?

「えっ?な、なんで…悠斗がいるんだよ」

「なんでって悠斗くんも行くし、荷物運ぶの手伝ってくれるって」

「麻衣さーん?」

「はーい、今行くねー」

「陸もシャワー浴びて早く準備してね?」

「ま、麻衣ッ!」

 って呼び止めてしまったけれど…。

 やべぇ…何どうようしてんだ?

 落ち着けー、俺。

 麻衣が寝言ぐらいであんなに怒るわけがないんだ。

 つーか寝言なんか言ってないんだからビクビクしてる方が怪しまれる。

「もぅ、悠斗くんがいるのに…。陸、おはよ」

 麻衣はクスクス笑いながらチュッとキスをした。

 陸はキョトンとした顔で麻衣を見上げた。

「ん?おはようのキスでしょ?」

 驚く陸に麻衣はいつものように微笑んだ。

「あ…うん、そう。おはよう、麻衣」

 陸も手を伸ばして麻衣の顔を引き寄せると唇に軽くキスをする。

「それじゃあ、早めに準備してね?」

 麻衣がニコッと首を傾けて笑った。

 あぁ…そうだあれは悪夢だったんだ。

 俺にはこんな風に笑いかけてくれる麻衣がいるんだ。

 嫌なことは忘れて今日は思いっきり楽しもう!

「麻衣さーーん?」

「ごめんねー!今行くからー」

 麻衣がパタパタッと小走りで部屋を出て行こうとした。

 けれどドアの所でピタッと足を止める。

「どうした?」

 麻衣が振り返ってこっちを見ている。

 ベッドから下りようとしていた陸の動きが止まる。

「桜子さんの事は帰ってからじっくり聞かせてもらうからね」

 にっこりと笑って部屋を出て行った。

 残された陸は凍りついたように動かなくなった。

 やっぱりこれも夢だよな?

 つーか夢であってくれ!

 いや、そんな事よりもアレはまずい!

 あの麻衣の笑顔…。

 あんな目の据わった笑顔なんてこの世のものじゃねぇよ!

「麻ー衣!麻衣ちゃーーん!」

 陸は慌てて麻衣の後を追いかけた。

end(?)



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