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『春のヒトコマ−麻衣−』

 桜も散り始めた麗らかな春の昼下がり。

 咲き乱れる花々の匂いと一緒に柔らかな風が窓辺のレースのカーテンを揺らしていた。

「陸ー、後でスーパーに…」

 クローゼットで季節物の衣服の整理を済ませた麻衣がリビングへと戻って来た。

 陸の姿を見つけて言葉の続きを飲み込んだ。

 クッションを枕にしてソファに寝転がる陸が小さな寝息を立てている。

 きっと読んでいる途中に眠ってしまったんだろう、片手には雑誌を持っている。

 麻衣は微笑んで少しの間眺めていたが寝室へ戻りタオルケットを持って戻って来た。

 起こさないようにそっと雑誌を抜き取るとタオルケットを掛けた。

 麻衣はソファにもたれるように床に腰を下ろした。

 陸の寝顔を眺めた。

 自然と麻衣の顔が笑顔に変わる。

(かわいい…)

 年齢よりもずっと若く見える陸は眠っているとさらに幼く見えた。

 柔らかな茶色の髪に触れるとさらさら揺れる。

 陸と出会った頃のことを思い出した。

 不安も迷いも吹き飛ばしてしまうほどの強い気持ちを真正面からぶつけられた。

(誰よりも真っ直ぐな心を持ってるよね)

 麻衣は頭を傾けて陸の胸に耳を当てた。

 トクン、トクンと陸の鼓動が伝わる。

 規則正しく上下する胸に合わせるように麻衣は呼吸を合わせていく。

 同じリズムで呼吸をして陸の鼓動を聞いているとまるで一つになれたような安心感に包まれる。

 陸と出会って色々な事がたくさんあったこれからももっとたくさん色んな事があると思う。

 それでもこの人となら乗り越えていける。

 陸と出会えた奇跡に感謝していた。

 でも今はこうして側にいられることに感謝している。

(大好き…)

 今まで色々な人と出会ったけれどここまで愛しいと思えた相手はいない。

(陸だから、だね)

 生まれ変わってもきっと陸を選ぶはず。

 だって陸のそばにいるとこんなに穏やかで幸せな気持ちでいられるから。

(いつまでもそばにいるね)

 柔らかな風が麻衣の頬を撫でるとゆっくり目を閉じた。

end



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