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『君と桜-U-』
部屋の電気を消したままリビングの床に置かれた丸い照明のスイッチを入れた。
ポワァと白い明かりが灯る。
真っ暗だった部屋が柔らかい光に照らし出された。
「少しお酒付き合って?」
「じゃあ…私持ってくるね」
立ち上がろうとする麻衣の肩を手で押さえると陸がキッチンへ向った。
陸の後ろ姿を見送るとガラスのテーブルに置かれたキャンドルに火を灯した。
水に浮かんだキャンドルが揺れる度に炎が揺れ部屋の中に優しい影を作り出した。
キャンドルを眺めて微笑んだ麻衣が同じように他のキャンドルに火を灯すと照明のスイッチを切った。
人工的な明かりがなくなり幻想的な雰囲気がリビングを包み込む。
チリチリと蝋が溶ける音と微かに花の香りが辺りに漂った。
「ん?いい感じじゃん」
振り返ると上着を脱いで白いシャツを胸元辺りまでボタンを外した陸が立っている。
キャンドルの仄かな明かりの中に浮かび上がる姿はドキッとさせるほど色っぽい。
陸は灯されたキャンドルに満足そうに微笑むと麻衣の頭にキスをした。
褒められた麻衣が誇らしげに笑うと陸が麻衣とソファの間に腰を下ろした。
ソファに背中を預けて麻衣の体を引き寄せて足の間に座らせると目の前に持ってきた物を差し出した。
「うわぁ…ピンク色」
差し出されたピンク色のカフェ・ド・パリに驚きの声を上げた。
春限定のスパークリングワイン。
陸は麻衣に飲ませたくて用意しておいたのだ。
「キレイでしょ。桜の香りがするんだって」
陸は慣れた手つきで栓を抜いた。
炭酸の弾ける音が微かに聞こえ甘い香りが広がった。
持って来たシャンパングラスに注ぐと小さな気泡が薄いピンク色を揺らす。
「あれ?グラスは?」
陸が持って来たのは一つだけだった。
「一つで十分だよ」
「あー!私には飲ませないつもりなんでしょ?」
陸の胸に頭を付けながらプゥと頬を膨らませた。
あまりの可愛らしさに陸がプッと吹き出して笑うとさらに麻衣の頬が膨らむ。
「麻衣には俺が飲ませてあげるから」
陸はゆっくりとグラスに口を付けると顎を少し上げて口に含む。
キャンドルの光に照らされる少し目を伏せた陸の顔が色っぽくって麻衣は目が離せなくなった。
グラスから口を離すと麻衣の頬に手を添えて顔を傾けた。
唇を寄せながらジッと瞳の奥を覗き込まれると口を開き目を閉じた。
甘い香りと一緒に炭酸が喉を流れていく。
「どぉ?」
唇を離した陸が唇を舐めながら聞いた。
「美味しい…」
「じゃあ…もう一杯ね」
微笑ながら口に含むとさっきと同じように麻衣の口の中に流し込む。
「んっ…」
コクッと喉を鳴らして飲む麻衣の口元から飲み込みきれなくて雫が顎を伝って落ちる。
今度は口を離さずに酒と一緒に舌を差し込んだ。
クチュ、クチュと音をたてながら麻衣の舌を十分楽しむと唇を離した。
アルコールと長いキスで麻衣の瞳がトロンと潤んでいる。
「甘いね」
「でも、美味しい」
まるでジュースのような味に麻衣が興味を示したのか瓶に手を伸ばした。
「違うよ…」
瓶に触れようとしていた麻衣の手を握り引き寄せると耳元に顔を寄せた。
グラスをテーブルに置いて両手の指を絡めて手を繋ぎながら囁いた。
「甘いのは…麻衣」
薄っすらとピンクに染めたうなじに吸い付くように唇を寄せて離れる。
濃い色の跡が付いた同じ場所に今度は軽くキスをする。
「俺を一番酔わせるのも…麻衣」
麻衣の体は甘い囁きとアルコールにふわふわと浮いているように感じた。
「口説いてるのはホストの陸?恋人の陸?」
どこかのホストクラブかと思わせるような雰囲気に麻衣が意地悪く聞いた。
麻衣の言葉にクールだった陸の表情がピクッと反応を示す。
「どっちの俺に口説かれたい?」
逆にニヤリと笑った陸が体の奥をくすぐるような声で囁きかける。
耳に僅かに触れる唇と鼓膜を震わす甘い声がまるで躯の中から愛撫されているようで体が熱くなる。
「それは…」
開きかけた麻衣の唇を人差し指で押さえた。
「麻衣を口説けるのは俺だけ…でしょ?」
不思議そうに麻衣が首を傾げる。
陸は微笑むと麻衣だけを映しこんだ瞳を妖しく輝かせた。
「どっちの俺でもない。目の前にいる俺だけを見てればいい」
ゾクッとするほど妖しい色気を纏った陸が目を伏せながらゆっくりと顔を近付ける。
ゴクッと喉を鳴らして唾を飲み込んだ麻衣がわずかに顔を引いた。
「もう、酔ってるんでしょ?」
「クスッ…だとしたら麻衣のせいだよ」
言い終わらないうちに麻衣の唇に触れ陸が唇を動かすたびに甘い息が流れ込む。
体の位置を変えながらゆっくりと麻衣を押し倒す。
麻衣の髪がラグの上に広がるとゆっくりと顔を離した。
「酔えば酔うほど…」
陸は体を起こしながらシャツを脱いだ。
無駄のない鍛えられた上半身が現れると目のやり場に困ったように麻衣が目を伏せる。
「麻衣」
名前を呼ばれて目を開けると見下ろしている陸と視線が絡む。
「もっと欲しくなる」
陸はグラスに残っていた酒を全て口に含むと麻衣の口に流し込んだ。
受け止め切れなかったピンク色の雫が頬を伝い髪を濡らす。
甘い香りのする酒はまるで媚薬のように躯中を駆け巡り奥に眠る淫らな欲望を呼び起こす。
「今度は…俺が酔わせてあげる。何度でも欲しくなるようにね」
桜より可憐な君を酒より魅惑的な君を俺の腕の中に閉じこめてしまいたい。
体の奥から湧き上がる激しい渇望を瞳の奥に湛えて体を重ねた。
桜の香りに包まれて二人は始まりのキスを交わす。
end
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