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『dreams come true』

 洗い立てのレースのカーテンが風に揺れる様をボンヤリと眺めていると小さな欠伸。

 先週の夏日が嘘のように穏やかな陽射し、緩い5月の風が開け放った窓から流れ込む、一通り家事を済ませた麻衣は遠のく意識に抵抗することもなく静かに目を閉じた。


(あれ……ここは?)

 見慣れない部屋、優しい木の温もりを感じさせる部屋は広く、10畳以上はありそうだ。

 部屋全体を見渡せていることに気付き、ようやく麻衣は自分が部屋を上から覗いていることに気が付いた。

 そして部屋の中央にあるおそらくキングサイズはあるだろう大きなベッドには自分の姿、エプロン姿の自分は目を閉じて規則正しい寝息を立てている。

(私、だよね? でも、ここは……?)

 不思議に思い首を傾げていると部屋のドアが開き、小さな女の子が開いたドアの隙間からキョロキョロと中の様子を窺う。

 ベッドの上で眠る麻衣の姿を見つけると嬉しそうな顔で駆け寄り、そのままの勢いでベッドに飛び上がろうとした。

「こーら、邪魔しちゃダメだよ?」

 声の主は高校生くらいの男の子、声は囁くように小さい、眠る麻衣を起こさない気遣いだろうか。

 女の子を後ろから掴まえ抱き上げると、続いてその子よりももう少し幼い感じの男の子が顔を覗かせる。

「あ、やっぱり寝てる」

「ママは疲れてるから寝かせてあげようね」

「ママ、ねんね?」

「そうだよ。だから……シー、ね?」

 二人の男の子が唇に指を当てて女の子に言い聞かせる、だが女の子の視線はベッドの上の麻衣から離れない。

「もも……も、ねんね」

 少しぐずったように口をへの字に曲げる女の子に、二人の男の子は困ったように顔を見合わせた。

 自分がそこにいるのにまるでドラマでも見ているみたい、一体どうするのだろうと見ていると男の子はベッドに近付いた。

「じゃあ……お兄ちゃん達と一緒にねんね、しようか」

 ベッドに静かに下ろされながら女の子は嬉しそうに頷き、男の子がするように小さな指を唇に当てて笑う。

 よほど疲れているのだろうか、男の子達がベッドに上がり「ギシッ」と音を立てても、麻衣が目を覚ます気配はない。

 二人の男の子は女の子を挟むようにベッドに横たわり、女の子が寝付くまでトントンと優しい仕草であやしている。

 窓から差し込む陽射しレースのカーテン越しに柔らかく部屋を照らす、それはまるでベッドの上の4人を守っているようにも見えた。

(幸せそう……)

 女の子に続いて眠ってしまった二人の男の子、4人の穏やかな寝顔に自然と頬が緩む。

「ただいまー」

 離れた場所から聞こえてきたその声はよく知っている。

(もしかして……)


「……衣、麻衣」

 トントンと肩を叩かれていることに気が付いて、慌てて顔を上げると飛び込んできたのは陸の笑顔。

 美容院のシャンプーの香りとカラーリングの香り、綺麗な蜂蜜色の髪越しに陸と目が合った。

「こんな所で寝たら風邪引くよ」

「うん」

「夢でも見てたの? なんかすごく嬉しそうな顔してたよ?」

「ん? ……うん、可愛い女の子とカッコいい男の子が出てきたよ」

「男ー?」

 陸は顔から笑顔を消してピクリと眉を吊り上げた。

 その眉にかかるサラサラの前髪に手を伸ばしながら麻衣は微笑んだ。

「陸もきっと会えるよ」

 フフフと笑みを浮かべる麻衣に首を傾げつつ、陸は麻衣の額に唇を寄せて囁いた。

「ただいま」

 さっきの夢の声の主が誰なのか、確認するまでもないことに、麻衣は再び幸せそうに微笑んだ。

 end


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