メルマガ保管庫
『意地悪な恋』第八章オマケ
休日の朝、目覚めと同時に今日はどんな一日になるだろうと心が躍る。
アメリカで暮らしていた頃の知り合いが聞いたら何の冗談だと驚くことだろう。
もっと驚くことは自分の部屋にステディな相手を泊まらせていること。
しかも相手は……。
胸は小さくてどちらかというと平坦な体型、化粧映えする顔ではなく、素顔だけなら大学生といっても大抵の相手は信じる。
「あ……和真ぁ……おはよーぅ」
唇の端から涎を垂らしていることにも気付かないアホ面で笑う、これが俺の恋人。
「何がおはようだ。何時だと思っている」
言ってやるとかのこは慌てた様子でベッドサイドに置いてある時計に手を伸ばして時間を確認した。
「あーーーもう10時過ぎてるーーー」
布団から出た白くて華奢な肩がガックリと力を落とす、その肩には白い肌に際立つ赤い跡が散らばっている。
起きられないくらい無理させたのは俺なのに、そのことに気付きもしないのがかのこだ。
「昼にしげじいの蕎麦を食いに行くつもりだが、それまで我慢出来るか? 何か食うか?」
「お蕎麦嬉しいっ! でも……お腹空いてるし……でも何か食べるとお蕎麦入らないかな」
色気より食い気だ。
自分がまだ裸でベッドの中だということも忘れ、真剣に飯のことで頭を悩ます女は今までいなかった。
「クロワッサンサンドくらいなら入るか?」
それはかのこが最近お気に入りの近所のパン屋が週末だけ出すメニューの一つだ。
「入る〜〜」
また涎でも垂らしそうな至福の顔で笑うと、かのこはベッドの中にもぞもぞと潜り込むとジッと俺の顔を見上げた。
「どうした」
「う……ううん、何でもない……」
おまけに嘘が下手すぎる。
「なんだ、言ってみろ」
「あ……あのね、昨日のことなんだけど……私が和真を振り回してるって……ほんと?」
真剣な顔で何を言い出すのかと思えばそんなことか……。
そんなの俺が聞きたいさ。
第一、誰かを好きになんてなるなんてこと自体予想外なんだ。
しかも相手はこんな……なのに、どうして可愛いなんて思うのか未だに分からない。
誰にも傷つけさせたくないと思う、出来ることならいつでも目の届くとこに置いておきたいとも思う。
なぜ俺がこんなに夢中にさせられる?
「和真?」
「もしかして振り回されたかったのか? それなら期待に応えてやらないとな?」
「け、結構ですっ!!!」
慌てて首を横に振ると寝ぐせのついた髪はもっと悲惨になった。
そんなの俺が知りたいさ。
かのこのやることがいちいち可愛くて、お前の喜ぶ顔を見るためなら何でもしてやりたくなる。
もしかのこが別れを望んでも誰かを愛しいと思えることを思い出させてくれたかのこを絶対に手離せないだろうな。
「それより……いつまでもベッドにいるつもりだ? 昨夜だけじゃ足りなくておねだりのつもりか?」
「ちっ……違いますっ!」
顔を真っ赤にして慌ててベッドを飛び出すかのこを目で追いながら今日も楽しい一日になりそうな予感がした。
end
前へ | 次へ
コメントを書く * しおりを挟む
[戻る]