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ももフェス'09 「-one-」本編オマケ

 慌しい一日の終わりに西の空に沈みかけた太陽が海面をキラキラと照らし出している。

 その光景には目もくれず海岸からかなり離れた場所に止めてある車に向かって走っていた。

 早く帰してくれるつもりだったなら教えてくれれば良かったのに……誠さんはいつだってそうだよ!

 いつもよりも一時間早く上がらせてもらったのはありがたいと思いつつも麻衣の中のわだかまりみたいなものが消えているのか不安で気持ちが早く早くと体を急かす。

 仕事に戻ってから結局一言も話せないまま、麻衣は美咲と一緒に海水浴を楽しむと店を出て行ってしまった。

 笑顔で自分に手を振ってくれたのだから大丈夫と思っても不安はぬぐえない、しかも麻衣に電話を掛けても留守電になってしまうのがまた不安だ。

 まさかあんな風に海の家に乗り込んでくるとは思わなかった。

 おまけによりもよって一番見られたくない仕事をしている時に見つかるとは……。

 運が悪いとしか言いようがないですよね、響に気の毒そうな顔で慰められた。

 あいつら……他人事だと思って……。

 息を切らしながらようやく自分の車が見えるとリモコンでドアを開け慌てて乗り込んだ。

 炎天下に置かれた車内はサウナよりもひどく、思わず顔を顰め一気に吹き出してくる汗に急いでエンジンを掛けた。

 あちぃ……でも涼んでる暇はねぇし……。

 少しでも早く帰って麻衣の顔を見ないと安心出来ない。

 ――コンコン。

 エアコン付けたまま窓を全開にして走ろうとドアに手を掛けた時に小さく窓を叩く音にハッとして振り返った。

 助手席に窓の向こうに小さく手を振る麻衣の姿が見えた。

 ウソッ……麻衣っ!

 幻でも見ているのかと思ったが車から飛び下りて助手席に回り込むとカジュアルなワンピース姿の麻衣が立っていた。

「ま、麻衣……」

「お疲れさま。すっごい汗だね……走って来たの?」

 麻衣はいつもの穏やかな笑顔を向けると持っていたタオルで額から落ちる汗を拭ってくれる。

「どう、して……」

「仕事を早く上がらせたって、誠さんがココも教えてくれたよ」

 なんだよ……、美味しいとこばっか持っていきすぎじゃん!

 でも誠さんの気遣いに今だけは心の底から感謝した。

「ごめん……今日、嫌な思いさせたよね」

「うーん……ちょっとね。でも、もう平気だよ?」

 その言葉に嘘がないかどうかは麻衣の表情を見れば一目瞭然だった。

 良かった……ホッと胸を撫で下ろすと麻衣が俺の心中を察したのか笑いながら汗で濡れた前髪をかき上げた。

「海の家でもモテモテだったね?」

「それは言わないで……」

「見た時はビックリしたけどね、やっぱり陸だなぁって思ったよ」

「どういう意味?」

「ん……一番カッコ良かった」

 大好きな子にこんな風に言われる俺ってすげぇ幸せだ。

 仕事とはいえ他の女の子とベタベタとしてたのは事実で、もっと怒っていいはずなのに(いや……実際すげぇ怒ってたとは思うけど)

 申し訳ない気持ちと恋しい気持ちのごちゃまぜの感情が膨れ上がり俺は手を伸ばして麻衣の頬に触れた。

「キス、してもいい?」

「ここで……?」

「ダメ?」

 すぐ前には家路を急ぐ車がひっきりなしに通過していく、麻衣はそっちにチラッと視線をやってから俺に戻した。

「ダメって言ってもするんでしょ?」

「……麻衣がダメって言うなら、しない」

「ほんとに?」

「……うん」

「ほんとにほんと?」

 こんなやり取りをしながら俺は麻衣の顔にゆっくり近付いた。

 もちろん分かっている麻衣はそれを拒もうとはせず、一瞬だけ仕方ないなぁって顔を見せた。

 吐息が触れ合うほど唇を近付けると麻衣の小さな手が俺のシャツを掴み、ほんのわずかだけれど顎が上がるのを見てゆっくりと目を閉じた。

 引き寄せられるように重なった唇。

 傾いた太陽から放たれた日射しでジリジリと焦げ付きそうな背中は熱いはずなのに触れただけの唇の方が火傷しそうなほど熱かった。

end


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