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▼ キッカケは単純で

軽快な入店音に、いらっしゃいませーと声を出す。
特に気にされることもなく、客は目的のものを買ってさっさと出て行く。
特別何かが変わるわけでもなく、時間の合間に兄弟が働いていたからという理由で始めたバイトは、適度に暇をつぶせた。
ただ、コンビニ前というのは溜まり場になりやすい。
何度か注意を促しても、結局あまり変わらない。
むしろ最近若い女の来店率が増えた。
正直、悪い気はしないけれど相手にするわけでもない。
むしろ一緒に働いてるエースとか、弟のルフィと遊ぶ方が楽しい。
ただ、溜まり場の何が困るって。


「…ゴミぐらい捨ててけよ…」


はぁ、と溜息をつきながら店の前を掃除する。
何ですぐ近くにゴミ箱があるのに…つかガムつけんなっつの。
苛つきはするが慣れたもので、特に働くことに意味を見出していなかったおれは、多分思っていたより心が荒んでいたのかもしれない。

特にいつもと変わらず働いていた時のことだ。
コンビニ前には大声で騒ぐ高校生、これはあまりよろしくない。
ほらみろ、客が近寄って来ねェ。
仕方ないと外に出て注意をしようとした時、三人の女子高生が通りかかった。
そこにすかさず絡みに行く高校生を見て、げんなりする。
若いな、けど女と絡むと面倒くささが増す。
これは大人しく去るまで気にしないのが一番だと思いはするものの、ついちらちらと外を気にしてしまった。
すると、何やら不穏な空気が漂っている。
あー、やっぱりかなんて思っていれば、ピンクの髪をした女子高生が男を投げ飛ばした。

一瞬見間違いかと思い、目を擦ってからもう一度見ると男子高生が伸びている。
一人残らず。
そこにオレンジの髪の女子高生が近づき、笑顔で何かを告げると、バタバタと男子高生が去って行った。
なんというか…最近は女もつえーな。
はは、と乾いた笑いが漏れると、女子高生達は入店して来た。


「…いらっしゃいませー」

「ったく、骨の無い奴らばっかだな」

「あんたが勇ましすぎなのよ…ってより、あいつらこの私に声かけて置きながらお金払わないってどういうことよ」


…最近の女子高生は本当に…、つか、一番地味な三人目がいたはずなのに、入ってきたのは二人だけらしい。
何でだ?まさかいじめられてんのか?
そう思って外に目をやったのと、彼女達の声が聞こえたのは同時だった。


「あ?イチカは?」

「なーんか気になるから先に入っててーだって」

「相変わらずお人好しっつーか…あんな奴らの置いてったゴミとかほっとけっての」


せっせとゴミを捨てている彼女は、一番地味で普通だと思った。
だけど、普通そんなことしないよな…というか、なんか、じーんとしてしまった。
単純というか何というか、思わず補充していたタバコをぺきょっと握りつぶしてしまった。

再び鳴る入店音と、二人と合流した彼女のふにゃっとした気の抜けた笑顔。
甘いジュースと甘いお菓子、それから少年達のバイブルである雑誌を買って、女子高生達は出て行った。

なんなんだろ、これ。
何かちょっと、癒やされたかもしれない。

それからというもの、彼女が割と頻繁にこのコンビニを使っていたことに気づいた。
女子高生なんて皆同じような感じだと思って気にしてなかったのに。
彼女は大概、甘いジュースとお菓子を買い、月曜日には週刊誌を買いに来た。
特に何も代わり映えの無い毎日に、いつの間にか彼女が訪れるのを待っている自分がいて。

あの夏の蒸し暑い日。
薄いTシャツ一枚の彼女に、頭をアイスの山の中に突っ込みたくなった。
勿論そんなことはしていないが。
でもダメだろう、それはダメだろう。
しかも全く気にしていないのって質悪くないか。
どうすんだよ、それで帰り襲われたりしたら。

きっとおれは暑さで頭がやられていたのだと思う。
そうでなければ、あんなセクハラで訴えられそうなことをあの子に言うはずがなかった。

でも、まぁ、それがキッカケの様になって。


「いらっしゃいま…あ」

「…えっと、こんにちは、サボさん」


躊躇うように、名前を呼んで。
照れたように笑う君に、


「こんにちは、…イチカちゃん」


胸がじりじりと焼けていく。