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第3回BLove小説・漫画コンテスト結果発表!
テーマ「人外ファンタジー」
- ナノ -
▼ 熱を解かす

「へっくしゅ!!」

「…しっかり風邪引いたわね」

「…調子乗りすぎた」


昼休み、屋上で暑い暑いと騒ぐ私にぴゅっと水が飛んで来た。
見ればルフィ、ロー、キッドがどこから入手したのか水鉄砲を持ってニヤリと笑っている。
ルフィのにししっと笑った顔と、こちらに向けられている銃口に、私もニヤリ。
四人で水鉄砲の奪い合いから始まり、中の水が無くなっても補充して続行。
昼休み中校舎を駆け回り、当然の如くびしょ濡れ。
そしてつい先程まで呼び出され、説教され、今やっとびしょ濡れの制服から体操服に着替えられたのだ。


「サカズキ先生厳しすぎるからヤダ」

「青雉に見つかった方がよかったわね」

「ほんとそれ…っくしゅ!」

「お前…熱も出て来たんじゃね?」

「んー…」


ぶるりと身震いすると、さっさと帰って寝ろ!と問答無用で荷物を持たされた。
いやまだ授業あるのに。
先生には言っとくからと、ほとんど強引に背中を押された。
まぁでもなんか、本当に寒気がやばくなってきた気がする。
いやいやでも、病は気からというし。
いやでもやっぱり、ここは念には念をということで…なんて一人でぶつぶつと荷物を抱えながら呟き、あ、牛乳が今朝で切れた気がすると思い出した。


「いらっしゃいませー」


結局ほぼ毎日のように通っているコンビニへ足を運ぶと、あの金髪の店員はいなかった。
なんだ、と肩を落とす。
…いやいや、何でがっかりしてるの私。


「…て、あれ、イチカ?」

「え?……あ、エース先輩…」

「久しぶりだな!つか学校終わんのはえーな」


いつもの金髪の代わりに、ルフィの兄であるエース先輩がいた。
というか、バイトとかしてたんだ。


「あー…早退です」

「ん?…そう言われれば顔赤ェな、大丈夫かよ」

「でも牛乳買わなくちゃ」

「牛乳より薬とかスポドリ買えよ。冷えピタもいるな、あとは…」

「いや、別にいい…って、…世話焼き兄ちゃんが…」


一人であれやこれやとカゴに放り込む従業員に、クスッと小さく笑いが零れる。
まぁ弟がアレだからこうなるのも必然?なんて考えていると、袋を手渡された。


「え、お金は?」

「おれが勝手にやっただけだ。あー、あれだ、お見舞い」

「ふっ、あはは!ありがとーございます」

「あとは薬もやりてーんだが…お、丁度いいとこに出勤だ。おいサボー!」

「ん?なんだよ」


入店音に先輩が声を張り上げ、聞こえた声にドキッとした。
まさかと振り返り、かち合った目に相手の目も見開かれる。
そして先輩と交互に見て、また首を傾げ。


「驚いたな、どういう関係?」

「ん?サボ知ってるのか?イチカはあれだ、ルフィの同期だ」

「え?ルフィの?」

「えっと…はい、まぁ…」

「そうだったのか…ああ、おれはサボ。ルフィの兄貴二人目だとでも思ってくれ」

「え!?そうなんですか!?」


驚く私に、何故かエース先輩が誇らしげに言う。


「サボはちょっと前まで留学してたからな、すげー賢いんだぜ」

「…へぇー…」


思いがけないところで接点があったとは。
そんな驚きから、思わずサボさんをじっと見つめてしまう。
そんな私を同じように見ていた彼が、ん?と眉を寄せた。


「…まさか体調悪い?」

「えっ」

「お、さすがサボ!何か薬とか持ってねェ?」

「ちょっと待て…あった。市販のヤツだけど、ないよりマシだろ」


そう言って渡された薬の箱には、確かに解熱やら何やら、風邪に効く症状が書かれている。
本当にいいのかとサボさんを見れば、にっと笑みを返された。


「ちょっと頭が痛くて買っただけだ」

「でも…」

「…ま、おれからもらうのが嫌だったら返してくれてもいいけど」

「いやそんなことは!…ありがとうございます…」


優しさで詰められたコンビニ袋に薬を入れる。
袋の中を見るとちゃっかり牛乳まで入っている。
もう一度二人にお礼を言って店を出ようとした時、後ろから「イチカちゃん」と呼ばれた。
初めて呼ばれた名前に、またドキッとする。


「…なんですか?」

「送ろうか?」


言われた言葉に驚き、でも心配そうな眼差しにふっと笑う。
この目、あの時も見たなと思いながら。


「大丈夫です、いつも心配してくれてありがとうございます」


含んだ意味に気づいたのか、困ったように笑ってひらりと振られた手に振り返す。


「また家に遊びに来いよーイチカ!」

「…え、家…?」

「はいー!エース先輩ありがとー!」


そしてエース先輩にも手を振り、私はようやく家路につくことができた。


「…なーサボ」

「ん?」

「お前もしかしてさ…」

「エース」


呼びかけられたエースが手を止めてサボを見ると、サボもエースの方を向いて人差し指を唇の前に持って行くジェスチャーをした。
その顔は、不敵に笑っている。


「…はいはい。まー頑張れよ」

「言われなくとも」


この後二日、風邪で寝込んだイチカには、二人のそんなやり取りなんぞ知る由もなかった。