×
「#幼馴染」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -
▼ 愛読書は週刊誌

暑かった、暑かったんだ。
暑かったとしか言いようがない。
それでなければ


「お客さん、中々派手なモン選ぶんですね」

「え、何がですか」

「その透けてる下着ですよ」


シャツの下の下着が透けることも、いつものコンビニの店員さんにセクハラ発言されることもなかったわけだ。
夏よ、くたばれ。



「それは店員がワリィ、ちょっとぶん殴ってきてやろうか」

「いやいや、帰りまで気付かずに公害して歩くのをせめて気付くという行為をさせてくれたお陰で、コソコソと帰るという選択肢を増やしてくれたんだよ」

「そんなもん余計なお世話です、見せびらかしてるんですって堂々としとけばいいじゃない」

「ごめんそこまで自信ないわ」


愛読雑誌をめくりながら、夕べあったことを友達に話せばまぁ、思った通りの反応が返って来た。
口も悪けりゃ素行も中々な大食いの友達はやはり危険で、自らの容姿をよーくご存知の男も金も掌で転がせる友達はやはり堂々としていて。
変わり者の友達がいること以外は極めて平凡に過ごして来た私には、夕べの出来事は話のネタに十分な恥ずかしい話なのである。


「やだなー…もうあのコンビニ行けない、恥ずかしすぎる」

「気にしすぎよ、どうせすぐ忘れてまた同じような格好して行っちゃうわよ」

「つーかこの辺にコンビニなんかあそこしかねーし、あそこ以外ならスーパーになんじゃねェの?」

「うー、それはめんどくさい…」

「ならもう過ぎた恥は忘れることね」


その微妙な後押しとも言えない言葉を胸に、私はいつも通りコンビニへ向かった。
すると時間帯は昨日とは違えど、忘れることの出来ない金髪が今日も今日とて働いている。
あらーご苦労様ですーなんて心の中で呟けば、レジにピッピッと商品を通していた男が口を開いた。


「昨日、無事に帰れましたか?」

「え…ああハイ、お陰様で…」


まさか掘り返されるとは思っておらず、気分悪くよそよそしくそう返すと、何故か目の前の男は苦い顔をした。


「わざわざ掘り返すこともありませんが、今言わないとせっかくのタネも枯れてしまう」

「は?何の話…」

「どんな風にでも、関心を持ってもらいたかったガキみたいな感情です。でも襲われるんじゃないかっていう心配からの余計なお世話なんですけど」


全く話が見えなくて、はぁ、なんて適当な相槌を打つと、金髪と目が合った。
あれ、こうやってみると割とイケメンだ。
そんな私に、彼は眉尻を下げて笑った。
不覚にも、ドキッとしてしまった私に彼は笑顔でこう言った。


「お会計786円になります」


ちょっとだけドキッとした私がバカでした。


「…ああ、ハイ」


財布の中からお金を出して、彼の手に乗せた時、何の前触れもなくその手ごと掴まれて反射的に肩がびくついた。
大きくて温かい手を、何故か不快だとは思わない自分に更に驚く。
だけどまた次の瞬間には何事もなかったかのように手は離れ、聞き慣れた入店音がする。
思わずパッと男の顔を見れば、彼はいつもの営業スマイルで言うのだ。


「またのお越しをお待ちしております」