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チャリ…と冷たい石畳と鎖の擦れる音がする。
時折聞こえる下卑た笑い声や、まるで家畜に餌をやるかのように乱雑に置かれる食料だとか、何もかもを諦めて受け入れ…たくはない。
まだ、どこかに希望はあるはずなんだ。
例えば今ここにいる現実が、私の言動のせいだとしても。
閉じ込められた鳥は、きっと機会を伺っているだけなのだ。
わずかに鍵が開かれるその瞬間を、ただ静かに待っている。
鷹のように、爪を隠して。

そうして私は幾夜も過ごした。
心が死にそうになっても、目が曇りそうになっても。
まだこの目が光を捉えられるなら、私が希望を捨てるにはきっと早いのだ。
世界には、もっと深い絶望がある、闇がある。
私が一人で勝手に現状に絶望したところで何も変わることはないだろう。
なら、私は信じている。
いつか世界を揺るがす何かを。
この小さな鳥籠を


ガシャアァンッ


ぶち壊すその手を。


「…お、人がいるな」

パラパラと崩れるそこから、より強い光が射し込む。
彼は一体、どちらだ。
ありの巣を突ついたように出てくる奴らを、次々と倒して行くその人は。
私にとって、新たな闇か。
それとも。

「大丈夫か?」
「誰」

鉄格子に手を掛ける彼は、一度私の方を見て目を瞬いた。
そして、鉄格子から手を外す。
あまりにも気丈に言い過ぎたかもしれない。
最早ここから出られる手段なら、縋った方が良かったのかもしれない。
でも、まだだ。
逸る鼓動を抑えるのでいっぱいの私には、鉄格子の隙間から手を伸ばす彼の行動をすぐに理解できなかった。

「な、なに」
「悪かった、自己紹介も何もなかったな。おれはサボ、革命軍だ」
「…かく、めいぐん…?」
「ああ…ここで秘密裏に行われていた人身売買の取り引きを、ぶっ潰しに来た」

そして私はやっと理解する。
伸ばされた彼の手の、その意味を。
ジャラジャラと鎖を鳴らしながら、私は右手を彼の手に重ねた。

「…わたし、私はラブ」
「ラブか、よくその目を保てたな。もう大丈夫だ」

もう大丈夫。
目の前で砕かれて行く鉄格子に驚きつつも、開かれた道。
繋いでいた鎖も引きちぎられ、私は久しぶりに何にも繋がれていない自分の手を見た。
酷く痩せこけていて、自分の手か疑ってしまうけれど。
開いて、閉じて、開いて。
強引にこじ開けられた鉄格子に手を触れた。
その手を、ぐいっと引っ張られる。

「感慨深いだろうけど、あんまりゆっくりも出来ない。もうすぐここは崩れる」
「…感慨深い、なんて、そんなことない」

震えて歩きにくいけれど、私だって今すぐここから走り去りたいのだ。
その思いを知ってか知らずか、サボはニッと笑うと、よっと突然私の足裏と片手を取って持ち上げた。

「ちょっと!」
「はは、随分気のつえー奴が捕らわれていたな」

いいから掴まってろ。
風を切って走り出すサボの首に思わずしがみつけば、思いの外しっかりとした体つきに胸がざわついた。
タン、と一歩外に出ればぶわっと温かい風に包まれた。
久しぶりに浴びる太陽は、目が開けられないほど眩しくて、私の頬がスッと一筋濡れた。
希望の光というやつは、思っていた以上に眩くて温かい。
どうしようもないほど、生きていると実感してしまって。
それがどうしようもないほど、嬉しいと思う。

「…さて、行く当ては?ラブ」
「私は元々旅をしてたのよ、今回はしくじっただけだわ」
「ふーん、まぁ、そしたらおれと一緒に来てもらうだけなんだけど」
「は?」

ようやくうっすらと開けられるようになった視界の中で、この男がこんな風にニッと笑うのを見たのは二度目だ。

「おれの今回の任務は、このアジトを潰すことと、ここに捕らわれているラブという少女を革命軍に連れて行くこと」
「な、なにそれ…」
「要するに…もう一人で戦わなくていいってこと」

その言葉を聞いて、ああ最初から知っていたのかと納得してしまう。
世間に殺された人がいたのだ。
私の心を救ってくれたその人は、世間的に見れば悪党だったかもしれない。
でも、あの人は笑っていた。
そばかすの頬を緩めて、笑っていた。
私の、心の中の消えない光だ。

「…私を入れたって、そんな大きな組織の役に立てないわ」
「そんなことないさ、歓迎するよラブ」

世界を変えたいと、小さな鳥は思った。
ならば世界を見渡そうと鳥は旅立ったけれど、籠の中に閉じ込められてしまった。
けれど鳥は待った。
必ずまた羽ばたけると信じて。
籠は開いた。
飛び立った先にあったのは、同じ世界を見渡す大きな鳥。

「…ご飯は一日五食頂ける?」
「ぶっ!はっ、はは!予算の許す限りで頼むよ」


The bird which broke out of prison

空は笑えるぐらい青かった。


【脱獄】
1 囚人が牢獄や刑務所・拘置所などから逃げ出すこと。法律上は「逃走」という。破獄。ジェイルブレーク。





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