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「どうしたのサボ?」

「よく解らない」



触れたくて仕方ないだろう。
風呂上がり、
バスタオル一枚という姿は、今の君には。

まあ、来ると解って待っていたんだけれど。
あまりにも来るのが遅いから、飲みかけの酒はもう僅かになってしまった。



「ラブ」

「なあに」

「俺達、終わったよな」

「そうだね。サボがそう言った」



別れると言われた時、
その理屈が解らなかった。
だって私の想いは終わってないから。

でも君がそうしたから、
そうするしかなかった。
だからこうなった。



君は?
君は別れたんだよね。

じゃあなんで今更
私を押し倒してるんだい?


歯を食いしばるほど悲痛な顔をして。
ギリギリと音を立てるのは、手首を束ねる拳からか、君の心中からか。

君の想いも終われそうにないんだろ。
勝手に決めておきながら、
結局触れたがる自分を許せないんだろ。



「…今のは忘れてくれ」



ドアノブも回せずに立ち尽くす、出て行けない君の背。離れていく何かを振り切ったその顔も、忘れろというのも、全部矛盾ばかり。

判断ミスは許そう。
でもそんな顔をするほど自分自身を痛め付けた事がいただけない。 何故できもしない嘘をつくのか。いいじゃないか我儘で。私はあの日、待つと言ったんだから。



「待ちなさいよ」


サイドテーブルのグラスを一口。

可哀想に。
嘘で着膨れした君の酷い姿を、
今、私が元に戻してあげる。



「愛してないって言って。ラブなんて嫌いだって。言わなきゃここは通さない」



ドアの前に滑り込み、
後ろ手に鍵をかければ、
哀しく、激しく揺れる瞳。

さあ。動揺するくらいなら、
くだらない嘘なんて脱いでしまえ。



「ラブ…っ、俺は」



押し退けようとした戦力皆無の手は私の肩に触れ、優しく愛を語るだけ。 指先に肌を馴染ませて、真逆の愛を語るだけ。

その君の矛盾に、私がどれほど泣いたか知ってるか。愛されてるという確信がありながら嘘をつかれる気分は世界が終わるより酷いものだ。それをよくも。



「随分と舐めた愛し方してくれたわね。許さない」



苦痛に歪む視線には、微笑みを。

慌てふためく首元から白を引き抜き、
一歩一歩後ずさる君を、
二歩、三歩と追い詰めて。
馬鹿丁寧にボタンを外す。




「どうしたの?言えないの?何故かしらね。私の手も振り払えないでしょう?」



はだけたシャツを払い除け、
突き飛ばし。
ベッドに転がる知らない傷に、
往生際の悪い唇に、昔と同じ熱を。



「サボ。あんたは勝てない戦をしてるのよ。早く気付きなさい。心には敵わないと」



バスタオルの結び目を解き、
腹を跨いで乗り上げ、逞しい胸板に両手を滑らせながら舌を這わせて。

残りのウィドウズキスを飲み干して、
夜明け前に起こしてあげよう。
君の本心を。



「ほら、どうしたいのサボ。言ってご覧」



束ねた髪を肩に流し、
ごくりと鳴る喉元を笑い。
動かない唇をついばみ、押し付けて。


わななく君は、
やがて諦めの遠吠えを上げるだろう。

私の首筋を、胸を、唇を、全身を夢中で貪る狼に変わるのだ。そうなれば後は触れ合う素肌だけが真実を教えてくれる。確かな愛が、此処にはあると。



ねえ、サボ。
たとえ世界中の人間が認めなくとも、
建前と嘘偽りで生きるのがこんなに辛いなら、もう好きという想いだけで生きようよ。


私は
いつでも裸で待ってるよ。
君の帰りを。


ヌードショー






【キス】
口付け,接吻


・カクテル「ウィドウズ キス」
意味:大胆
カルヴァドス 30ml
ベネディクティン 15ml
シャルトリューズ ジョーヌ 15ml
アンゴスチュラ ビターズ 1dash

widow:未亡人,寡婦( かふ )
語源:古期英語「別れた女」の意





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