◆全ての想いは灰になる
ごろりと王女の首が転がった瞬間、赤い鎧の女剣士が大きな声で叫びます

「火をつけろ!」

その声を聞くと、民衆たちも騒ぎ出しました

『そうだ!』
『燃やしてしまえ!』
『当然の報いだ!』

口々に何かを言っているため、もはや何を言いたいのか伝わりませんでしたが、木で出来た処刑台にはもう、大量の油が塗られていました
青い国の王子は顔をしかめます
本当にそれで良いのか
考えている間に、処刑台には火がつけられました
炎はみるみるうちに処刑台を包み込み、王女をも飲み込みました

「これでこの国は自由だ!」

王子が叫ぶと、民衆が沸きました
それぞれ喜びを口にしています

ただ一人を除いて

「……明里さん」

女剣士が、隣に立つ召使を呼びました
召使は燃える処刑台を見つめたまま唇をかみ締めています
目には涙を一杯に溜めて、それを流すまいと必死に堪えているのです

「なんだお前、泣くほど嬉しいのかよ!」
「当たり前じゃない、やっと自由になれたのよ!」

踊るように通り過ぎた男女が、召使の肩を叩いて行きました
手を握り締め、目を閉じると、涙がひとしずく流れました

「……泣かないって、約束したのに」
「明里さん、行きましょう……アイギスは、いつまでも一緒におります」

女剣士に支えられて、召使はその場を後にします

その後、その国で召使と女剣士を見た者はおりませんでした

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