◆きみだけはしあわせに
「……処、刑?」
「ええ、王女を殺そうと」
「な、なんで」
「幾月に、騙されていたんです……今の王女には、悪評しかない」
明里の表情が凍り付く
すると、目の前にいるのが明里からアイギスに変わる
「私は、明里様が好きです」
「知ってるよ」
「……しかし、晃さんの事も好きです」
「じゃあ、俺の最後の願いだ……明里を守って」
「承知、致しました」
泣きそうな顔のまま、胸に手を置き敬礼
それが終わると再び、目の前には明里……俺は、自分の服を差し出している
「この服、着てみたいって言ってただろう?」
「……晃?」
「明里に貸してあげるよ……直ぐに逃げるんだ」
「だめ……そんなの、駄目よ!」
「言う事を聞いてくれ、お願いだから」
「ど、どうせバレて終わりなんだから、晃が今すぐ逃げてよ!」
「大丈夫」
俺は笑う
「俺達は双子だろ?」
ゆっくりと、時間が流れている気がした
「きっと、誰にも分からないさ」
ビクッとして、目が覚めた
どうやら夢を見ていたらしい
よくもまあこんな状態で寝られたもんだと、自分の神経を疑ってしまう
牢の窓から見上げると、ほんのりと明るくなっていた
処刑当日だ
「出ろ」
そこからは、随分と早かった気がする
午後になると、さらされる為に俺は処刑台にあがらされた
仰々しい鎖をつけられ、時折石を投げられた
そんなこと、もうどうでもいいんだけれど
アイギスは、処刑のすぐ前に姿を見せた
「……召使は?」
「大丈夫、バレていません……しかし、貴方を一目みたいと」
「来てる、のか?」
「ええ、最後には燃やすと説明したのですが、見届けると」
最後に燃やすのは、俺が提案した事だった
ドレスをはがされれば、流石にバレる
ならばその前に体を無くしてしまわなければいけない
処刑の手順には、すぐ組み込まれたとアイギスに教えて貰っていたから安心していたけれど
……それを、明里が見るなんて
「絶対に声を出さない事、泣かない事、飛び出したりしない事……それだけ約束してもらいました」
「上出来……ありがとう、アイギス」
「光栄です」
俺は、睨むような視線を向ける
それでアイギスも分かってくれた、説明が省けるのは助かる
「アンタなんかと話したくないわ!」
「……無駄だった様でありますね」
俺がわざと叫んで、最後の説得に来た振りのアイギスは首をふる
残念、と言いたげだ……中々に役者だと思ったら笑えてきた
それを見て兵士が処刑台に上がって来る
ずっとさらされていたから、時間がわからかったが……そろそろらしい
「ほら、歩け!」
「私に命令するんじゃないわよ、愚民ごときが」
相手に好き放題言うのは、なかなかに楽しい
今まで幾月でためられていたうっぷんは、割と晴らせた気がした
ギロチン台に、首を固定される
流石にドキドキしてきた
落ち着け、そう自分に言い聞かせる
目を閉じると、教会の鐘が鳴った
外に出る事が出来なかった明里が、唯一楽しみにしてくれていた時間
俺に、笑顔を向けてくれていた時間
「あら、おやつの時間だわ」
言った直後、首元に風があたる
勢いをつけて落ちてきたそれは、俺の首に命中して
俺の意識は、そこで途絶えた
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