●悲しくもワルツは終わりを告げる
「王女様、おやつの時間ですよ」
おやつの時間は午後三時と決まっていた。
教会の鐘が鳴り響く。
「ねぇ、湊。元気ないよ?どうしたの?」
「そうですか?いつも通りですよ」
違う。元気がないというより哀しそうだった。
でも彼が口にしたがらないなら話してくれるのを待とうと思った。
「そう…、勘違いで良かったわ」
その日、新聞には「虐殺の王女。緑の国を焼き払う」と大きく報じられた。
国民を敵にまわし、贅沢をし続ける王女。青の王子と赤い鎧の女剣士が手を組み、王女を捕らえ処刑しようという噂まで流れている。
王女はいつものようにティータイムを過ごし、また執務に戻るのだった。
翌日。教会の鐘が午後三時を告げても湊はやって来なかった。
湊の代わりにやって来たのは赤い鎧の女剣士とその兵士達。
「貴女は誰?私を誰だと思っているの?」
「王女を捕らえます」
淡々とした彼女の声を合図に王女は捕らえられた。
「この、無礼者!」
「ターゲット、確保しました」
王女が幾ら離せと命じても、誰も彼女を助ける者などいなかった。既に城に居た家臣達は逃げ出し、怒りに狂った国民に彼女の声は届かない。王女は牢屋に入れられた。処刑の時間は直ぐに決められ、明日の午後三時となった。
鉄格子から覗く月は今まで見た月の中でも一番美しく輝いて見えた。
そして終わりの告げる鐘が鳴る。
「あら、おやつの時間だわ」
王女は処刑された。
転がる彼女を見て、処刑台を囲む国民達は歓声を上げる。その中に一人だけ、静かに涙を流した者がいた。
彼は誰も居ない舞台の幕を閉める様にこの国から姿を消した。
[*prev] [next#]
←