●荊の冠
昔々、ある所に悪逆非道の王国の頂点に君臨してた齢十四の王女様がおりました。
王女様の名は美咲。
彼女には顔の良く似た召使がいつも傍にいました。




「王女様、彼方の国に参られたらば先程の様におっしゃって下さいませ」
「わかりました」
「わかりました。ではありません、貴女は王女なのです。民衆の前ではその様に下手に出てはいけないとあれほど…」
「王女様、おやつの時間です」
「湊っ!今行くわ!…それじゃあねっ」

美咲は物言いたげな大臣から逃げる様に執務室を飛び出した。ドアの向こうではトレーを片手に召使の湊が笑顔で待っていた。

「絶妙なタイミングね湊!助かっちゃった」
「それは何よりです。王女様、さあ部屋へ戻りましょう」

私達はずっと一緒だった。
王女という地位のせいで同じ年頃の友人などはおらず、召使の湊だけが美咲の唯一の理解者だった。
民衆と話してはいけない。こう言われたらこう返さなければいけない。
何もかもが大臣達に決められて、外に出ることは外交以外禁じられていた。
その代わり、本で見た調度品が可愛いと言えば次の日には用意されていたし、絵本で見た白馬が格好良いと言えば、馬小屋と白馬がいつの間にか私のものになっていた。
物には困らない。湊が一緒であるからこそ私は王女でいられる。





王女の世界は狭い。税の徴収で庶民が苦しめられていることなど彼女は知らない。

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