君がかわいくってかわいくって頭がおかしくなりそうだよ!

なんとなく、あっちへ行かない方が良い気がした
あくまでなんとなくで、別に命の危機というほどでは無いから気のせいだと言う事にして足を進めて、やっぱり勘が当たった、さっすが俺……とは言ってられないけどな

「楽進殿、楽進殿」

そこにいたのは、名前と楽進
いや、俺から見えるのは楽進と名前の腕だけなんだが
楽進のわき腹辺りから伸びた細い腕、あれが名前の物だろう、声もしたし

「なっ、あっ、あの、名前殿!」
「呼び捨てで良いですよぉ」

楽進と一緒にいる時の名前は、ものっすごく気持ち悪い
いや、あれがアイツの愛情表現だとは分かっているんだが……分かるのと、許容できるかは別問題だ
普段男顔負けの戦をする女の猫なで声とか、勘弁してくれ

「いえっ、そんな、呼び捨てなど恐れ多い!」
「ふふふ、別に私は偉くも何とも無いんですよ?」
「その、あの、ですね」

そもそも名前だって分かっているんだよ、楽進が名前に惚れてるなんて事は
あいつから聞いたんだから間違いない
だったらさっさと両思いだと伝えりゃいいだろという俺の意見に、それじゃあつまらないじゃないかと言った名前の顔は忘れられない

「楽進殿、どうしたんです?」

ただ、その日は様子が違った
いつもは、そのまま楽進が失礼します!と走り去って大体終わる
それが今日はしどろもどろではあるが、抱きつかれたままになってるじゃあないか
ニヤニヤしてるであろう名前の呼び掛けの後、抱きつかれたままだった腕を外して振り返る楽進

「ちょ」
「ん?」
「調子に乗って、いいですか?」

名前の肩に手を置いて、そう言った
何だそれお前、やっと踏み出したと思えば

「楽進殿」
「は、はい!」

流石に名前も痺れを切らしたかと、多少心配しながら見ていると、名前は手を下に二度振った
頭を下げろ、という事だと思う
楽進もそう思ったらしく、首を傾げながら頭を下げて
その頭は名前に抱きかかえられた

「なっ、なななななっ、あっ、あっ、あのっ、名前殿っ!」
「ほんっとにもう……楽進殿、可愛らしい……!!」

名前は、楽進の頭を胸元にぎゅうぎゅう押し付けながら、すげえ良い笑顔だ
心配するだけ無駄だったらしい
そりゃそうだとは思う、あれで愛想を尽かすならとっくにって話だな
段々といつまでくだんねーもん見てんだ、という気分になってきた
そらしていた目を再び向けると、名前と目が合う
やべえ、と思ったけれど、名前は俺を見てニヤリと笑っただけ
あいつ、気付いてやがった

「楽進殿楽進殿、調子に乗って私に何をしてくださるんです?」
「な、何、とは、名前殿」
「とりあえず私の室に行きましょうか、すぐ近くですし、ね」

ああ、楽進の耳が真っ赤だ
そして名前は戦場と同じ目付き、獲物を狙っている
もう見てられない、本人はいいのかもしれんが、俺から見れば楽進が可哀相だ
俺が背を向けて歩きだすと、あいつらも反対方向へ歩きだしたらしい
なんというか、自分の事じゃないのにどっと疲れてしまった
ため息をついて、これからは自分の勘は信じるようにしようと心の中に刻み込んだ


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