2月14日のトリックオアトリート

「陽介の分なんてないけど」

名前の言葉に固まった俺
この場にいるのが俺と名前だけでよかった
多分、いや確実に俺は情けない顔をしてるはずだ

「ええぇえ何で!?」
「なんでもなにも」
「俺とお前の仲じゃん!」
「意味が分からない」

なんで俺がこんなに食い下がるかと言うと、名前がクマにチョコをあげているのを見てしまったからだった
アイツが貰って俺に無いというのは、バイトとクラスが同じなのに酷過ぎる

「クマにあげてたじゃん!」
「トリックオアトリートとか言うから」
「なんだよそれ!!」

ハロウィンはまだ先だろ!っていう考えに頭の隅っこから、そこじゃねーだろって突っ込みが聞こえた気がする
そもそも、ここまで食い下がる程に名前が好きかと聞かれると、正直分からない
でも名前で呼ぶ女子は多くないし、名前だって俺を陽介と呼ぶ訳だし
仲は良いと思ってた、友チョコも無しなんて

「じゃあ俺もトリックオアトリート!」
「熊田くんの真似までして必死か……」

割とひんやりした目で見られたけれど、今の俺は何も怖いものは無い
クマに負ける訳にはいかないのだ!

「……悪戯は?」
「えっ?」

そんな沸騰した頭だから、名前が何を言ったのかを理解する事が出来なかった

「だから、悪戯」

そんな俺に同じ言葉を繰り返して、ずいっと顔を近付ける名前
これは何ていうギャルゲなんだ?
そのまま近付いた顔は、俺が引かなかった為に唇同士が軽く触れて離れる
え、これは、何事だ?

「これで悪戯でいい?」
「え、あ、はい……」
「じゃあ私は仕事に戻るよ」

そうして名前は休憩室から出ていく
俺は、その場に座り込んだ
名前を好きかなんて、考えた事は無かったはずなのに
俺のこのうるさい心臓は何なんだ
ていうか、名前はどうなんだ?
あんな涼しい顔して……遊ばれたのか、俺

「……陽介?」
「…………なんだ、相棒か」
「なんだとは随分だな」

そこに現れたのは俺の大親友
地べたに座り込んだ俺に怪訝な視線を向けて、直ぐにドアの向こうを見る

「名字さん、具合悪いんじゃないか?」
「っ、は?」

相棒まで名前の話かと固くなる
とはいえ、具合悪いかもと言われれば聞かない訳にもいかない

「な、なんでだよ?」
「すれ違ったんだけど、真っ赤な顔してたから」

真っ赤な顔、と言う事は遊ばれた訳ではないらしい
それどころか、多分アイツも恥ずかしかったんだ

「ど、どうしよう相棒」
「なにが」

説明しようがないし、多分相棒も俺が知るかってスタンスな気がするけど聞かずにはいられない
このあと、名前とどんな顔して会えばいいんだよ!


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