バレンタインデーの次の日の彼

彼氏が料理人、しかもパティシエだというのは損だと思う
美味しいお菓子を食べれるから良い、なんてのは上辺だけ見てる人の意見だ
特に、女の子が気合いを入れる日なんて悲惨以外の何でもない
しかも相手が欲しがるんだから、逃げようもなかったりして……彼と付き合い始めてから、特に二月は憂鬱だ

「はあ……」

ツカサちゃんと一緒に、今週のダンスイーツを見ながらため息をついた
彼、天海一誠はお菓子を作っているから此処には居ない

「どうしたんですか名字様、ため息なんて」
「いや……一誠のお菓子は、やっぱり綺麗で美味しそうだなあと思って」

収録は、バレンタインの翌日だったはずだ
それに合わせたからか、チョコレート特集だし
私が作ったケーキより見栄えも、多分味も良いケーキが出来ていくのを見ているのは、少しばかり辛い

「そうですね、この日は気合いが入っていた様ですから」
「……気合い、なんで?」

彼女を打ち負かそう、なんて事を考える相手じゃない
普段から手を抜いたりしないのに、なんでまたこの日に気合いが入っていたのか

「バレンタインの翌日だからですよ」
「……ごめん、全くもって分からない」

フフフッ、なんて楽しそうに笑われても何のことやら
考えるのも面倒で、ツカサちゃんの答えを待つ

「名字様から天海様へ、チョコレートを差し上げたでしょう」
「うん、あげたけど」
「嬉しかったからですよ、だから天海様は気合いが入っていたんです」

自分の方が美味しいくて綺麗なお菓子を作るくせに
私が作ってあげたから、それだけで?

「お待たせ致しました……名前、どうしたんですか?」
「なにが?」

私は、普通の顔だったはずだ
動揺なんてしてないし、それを顔に出してなんてないのに

「嬉しそうですね」
「…………別に」
「名字様は照れ屋さんですね」

この二人には、何故分かってしまうんだろう
そして、私を見て嬉しそうに、楽しそうに笑うものだから
そりゃあ照れもするよ、って話だ

「け、ケーキは?」
「出来ていますよ」
「では、私はお茶を淹れてまいりますね」

ツカサちゃんが紅茶を淹れに立って、私は一誠が切り分けたケーキをテーブルに並べる

「食べながら、何を話していたか聞かせていただけますね?」
「…………やだ」
「では、二人きりの時に」「お待たせ……あら、もう少し時間をかければよかったですね」

そんな気遣いはいらないよツカサちゃん
どちらかと言うと、もう少し早く帰って来て欲しかった

「い、いいから、早く食べよう」
「うふふ、そうですね」
「今日のケーキは自信作ですよ」

いつも通りの笑顔でテーブルを彩る二人
二人きりの時に、そう言った一誠の笑顔に若干の黒さを感じたのは勘違いと言うことにしておきたい

……今日は、なるべく早めに帰ろうと思う


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