「失礼致します!」

大きな音を立て、本当に失礼といえる扉の開け方をした女を見て、俺の視界の端に映る男は笑った

「やはり此処でしたか」
「流石に早いな、名前」

笑顔だが、苛立ちが名前から伝わってくる
一国の主が何やってんだ、そんな正論さえ通じないのだから、もうなるようになればいい

「名前、早く連れて帰れ」
「元譲様に言われずとも」

大股で孟徳の前まで行き、目の前で仁王立ち
楽しそうな笑顔のまま読んでいた竹簡を俺に投げてよこした孟徳は、ゆったりとした動作で名前を見上げる

「さて、何用か」
「何用じゃないです、貴方様がいないと進まない事が多いと分かっていらっしゃるでしょう」

眉間にこれでもかと皺を寄せた名前が気の毒でならない
毎日こうなのだから、巻き込まれた俺も勿論迷惑しているが、孟徳はただ名前を困らせようとしている節があるのだから一番大変なのは名前だ
孟徳は、こうして怒られるのが新鮮だとかなんとか言っていた
怒るなら俺もしている、という俺の文句は、男に怒られても楽しくなどないと無茶苦茶な理由で一蹴された

「さてな、わしには優秀な部下が多い、なんとかなるのではないか」
「ならないからこうしてお呼びに来ているのです!」

遂に名前が声を荒げると、孟徳は喉の奥でひっそりと笑う
いつもそうだから、いつの頃からか気付くようになってしまった

「では仕方ない、帰るとするか」
「元譲さま失礼を致しました、孟徳さまお急ぎを」

孟徳の言葉を聞いて、すぐに俺に礼をしてきびきび歩いていく名前
対して孟徳は、ゆったりとした動作で立ち上がり、のろのろと名前の後を着いていく
廊下に出たあとも、詳しくは聞こえないが、なにかしらの小言を言われているのがぼんやりと聞こえてきた
子供か、といつも俺は頭を抱える
そんな事をしたって、明日も孟徳は来て、同じように名前も来るのだろうが

たのむから、俺を巻き込まないでくれ
ささやかな俺の願いは、叶いそうもない


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