(サーカス組が怪盗団というパロディのパロディみたいな話です)



「と、いう訳です」

次の標的の説明を終えると、名前さんはため息をつきました
普段の警察の警備と別に標的の家の息子がやたらと腕が立つ、難しいのが目に見えている
気持ちはわからないでも無いのですが、それで名前さんの表情が曇るのはいただけません
団長へ視線を移すと、名前さんを見てニヤニヤと笑っていました
困っているのを楽しんでいるのかもしれません、私にはいまいち分からない感情……とは、言いきれないのですが
名前さんは、笑っている方が可愛らしいと思うのです

「団長、策はあるのでしょう?」

私が言葉を発すると、皆の視線が団長へ集まります
にやりと笑って手を叩くと、大袈裟な身振りで立ち上がる
いつも通りの団長の行動に、名前さんの表情も和らぎました

「あははあ!当然当然、むしろいつもより楽かもしれないね!」
「どうしてですか?」

聞いたのは蔡文姫さん
私と名前さんは頷いて、団長の言葉を待ちます

「簡単な事、あの家の主治医が曹丕先生でね、協力してもらう算段が出来てる」
「あら、偶然……なのですか?」
「いいや、だからこそあそこを標的にしたのさ」

蔡文姫さんに団長がそう言うと、名前さんは苦虫を噛み潰したような顔をしていらっしゃいました

「私が下調べした時にはそんな話は出て来なかったのに……」
「あっははあ、まだまだだねえ」

眉がぴくっと動いたと思うと、名前さんが笛を取り出します
まずいと団長が顔をしかめましたが、すでに後の祭り
私は蔡文姫さんと角の方へ移動しました

「ダガー!団長が遊んでくれるみたいよ!」

名前さんは、表の仕事は動物の調教師です
ダガーは名前さんの一番の友達と彼女本人から聞きました
それが真実のようで、ダガーはたびたび団長に飛び掛かっています
怪我はしないので、私達も傍観を決め込む事にしているのです

「団長、決行は今晩でよろしいのですか?」

それだけは聞こうと、ダガーから逃げ回る団長に声をかけます

「ああ!準備しといてくれよ!」

笛とダガーの鳴き声の中から聞こえた団長の声
私と蔡文姫さんと名前さん、3人顔を見合わせて頷きます
困難が多いほど燃える、なんて暑苦しい事を言うつもりはありませんが、美しい見せ場を増やせるのはいいことです

「今夜のショーも楽しみですね」
「上手く出来れば良いのですけど」
「私は皆で力を合わせれば大丈夫だと思うよ」

笛を吹きながら、私達の隣に並ぶ名前さん
団長への攻撃は止める気はないようです

「そうですね、今晩も頑張りましょう」

普通に返答をする蔡文姫さん、私も別に止める気は無いので同じなのですが

「では、ショーの練習といきましょう!」

蔡文姫さんは頷いて部屋を後にします
私も続こうとして、一度後ろを振り返りました

「私はここで練習を」
「……程々になさってくださいね」
「ちょっ、止めようとくらいしても」
「ダガースピードアップ!」

団長の叫び声を遮るように、私は扉を締めました
今晩お仕事だと分かっているのですから、無理をする訳が無い
そうしてくれるはずだと、名前さんを信じようと思います




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