ふと名前殿から頂いたマッチを眺める
そんな時間が増えて、以前に比べて仕事が長引くようになった気がする
と言っても支障をきたすような事は無い、あくまでも以前に比べて、なのだ

そうして今日は、マッチを眺めて落ち着かなくなってしまった気分をなんとかしようと何をするでもなく散策をしていた
散策とはいえ、城内の庭園をふらふらと眺める程度だけれど
庭園に着いてみると、そこに居たのは甘寧殿、珍しいと思ったのも一瞬
彼は木の根元に向けて刃物を構えていた

「堂々とこんなとこで気絶してた上、縛られるまで気付かねえとは大物じゃねぇか」
「い、いや、その、抵抗しないので、武器を収めて下さいませんか、仰る通り、手も縛られてますし、抵抗しませんし」
「……抵抗しないって二回言ったの気付いてるか」

間者、その考えは直ぐ様消える
声に聞き覚えがあった、仕事の事以外で、最近の私の思考の中心
いるはずのない相手を確かめるため、甘寧殿に急いで近付く

「名前殿!?」
「陸遜さん!」
「は、お前ら、え?」

縛られているの言葉の通りに、名前殿の手は飾り紐の様なものできつく縛られていた
甘寧殿が手にしている刃物――近くで見ると大振りの大剣だった――をひったくり、慎重に飾り紐を切る
高かったんだぞ!とか怒鳴る甘寧殿は無視した

「大丈夫でしたか?」
「はい、ありがとうございます」
「此処に来て良かった……いや、そんな事より」
「お前ら、知り合いなのか?」

名前殿との話を邪魔する甘寧殿が正直煩わしかったけれど、どちらにしろこの世界ではどう仕様もない
名前殿に手を差し出すと握ってくれたので、そのまま立ち上がらせる

「とにかく殿の元へ行きましょう、報告しないわけにはいきませんし……大丈夫、名前殿は私が守りますから」
「あ、いや、不審人物って自覚はあるので、陸遜さんが立場悪くならない程度で」
「そうはいきませんよ、名前殿」

握ったままの手に力を入れて、名前殿を見る
向こうの世界にいた頃と違う、不安げな表情
もしかしたら私も、あちらにいた頃はこんな顔をして過ごしていたのかもしれない
そう思うと、彼女には悪いけれど少しだけ面白かった

「今度は私が貴方を守る番です」

名前殿の顔を見て笑うと、少しだけ安心したように笑ってくれた


[] | []
TOP



×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -