きょろきょろと物珍しそうにしていた郭嘉さんは、一歩も動いていなかったようだ

「とりあえず汚れを落として着替えてください……深い傷はありませんか?」
「ああ、小さい傷がほとんどだね」
「では出てから手当てにしましょう、お風呂の使い方を説明します」

そうして、もう慣れてしまったお風呂の使い方や着替え方を説明して脱衣所を出る
君が洗ってくれないかとか、着替えさせてくれないかとかいちいちセクハラされたのはとりあえず忘れようと思う
彼が出てくるまでに冷蔵庫と救急箱の中身を確認した
冷蔵庫はなんとか二人分の材料はあるし、救急箱の中身も手当てに支障はなさそうだ
そうこうしている内に、お風呂から出てきた郭嘉さんに座ってもらい手当てをしながらいつもの説明をする
軽症というのは間違いじゃなかったらしく、私でも手当てが出来そうで安心した

「ふぅん……面白い事になったね」
「焦らないんですね……」

説明が一段落するとにこにこしながら郭嘉さんはそう言った
余裕と言うかなんと言うか、そういう反応は初めてだ

「まぁ、焦ってどうにかなるわけじゃないし、君も焦っていないようだから」
「……と、言いますと?」
「帰る方法も知ってるのかな、と思って」

その一言に驚くと、やっぱりねと笑って郭嘉さんは立ち上がる
やはり少しだけふらっとした彼は私を見下ろす

「それじゃあ私は帰るよ、その方が君にとってもいいはずだね?」
「……それは」

確かに帰す方法は知っている、昨日方法ははっきりした、帰そうと思えば帰せるはずだ
けど、自分でも厄介だと思っている世話焼き根性がそうするべきじゃないと言っている

「知っていますけど、教えるわけにはいきません」
「……どういうことかな」

空気がぴりっとする、一番最初にカクさんに会ったときと同じ……殺気というものなのだろう
正直耐えられない、こんなの日常で感じる機会なんて無いんだから
それでも、私は立ち上がって郭嘉さんを見る、と言うか睨む

「そんな顔色で帰ってどうするんですか、そんな体調で誰の役にたてるんですか」

私の言葉に、初めて郭嘉さんは眉を寄せた
怒っている……いや、図星だからそういう反応なのかもしれない

「貴方の世界がどうなっているのか知らないのだから無責任だとは思っています、でも目の前に居る顔色の悪い人をそうですかとは帰せないんですよ」
「他人なのに?」
「どうなってもいいなら、まず家の中にいる時点で追い出してます」

少しの間、睨み合う
私は折れる気は無い、それが伝わったのか郭嘉さんはため息をつく

「仕方ないね……お節介につかまったと諦めよう」
「そうしてください」
「それじゃあ、しばらくお世話になるよ」

そう言って、郭嘉さんは手を差し出した
断る理由も無く、その手を握る

「女性に心配されるのは凄く役得ではあるしね」

その言葉に、少しだけ後悔したのは伝えないでおこうと思う


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