目を開けると、いつも通りの天井だった
やわらかくない寝台から身を起こして辺りを見る
乱雑なそこは間違いなく自分の部屋だった
服も、いつもの自分の服に戻っている……どうやら竹簡を読みながら、うとうとしていたらしい
それなら、あれは夢だったのだろうか
夜でも明るく、食べた事飲んだ事のない物、広い風呂、短い間だったのにいくつもある体験したことの無い出来事
判断する材料が少ない
というより、無いと言ったほうがいいだろう
自分で行こうと思って行ったわけでもないし、行けるわけでもない
頭をかくと、髪が何時もより手触りが良いことに気が付いた
そもそも自分は帽子こそ取ったものの、口周りの布をとった覚えが無い
それは、寝台の端に綺麗に畳んで置いてあった
「考えても仕方ない、かねぇ」
独り言は、誰に聞かれる訳もなく空間に溶けていく
そうだ、考えても仕方ない
ごろりと再び寝台に横になって目を閉じる
今度来たら
名前殿はそう言っていた
そうなる保証もなければ、向こうに行ったとしても今度こそ帰れないかもしれない
それでもあっしは、あのお人好しの少女と再び酒を飲みたいと思ってしまう
「飲んでない酒もあるしねぇ……構わないんだろう、名前殿」
その言葉に、返事など返って来るはずはないのだけれど
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