「気にするなと粗相をした本人に言われたのなら、気にしなくていいと思うがねえ」

私の話が終わると、ちびちび飲んでいたビール缶を置いたホウ統さんがそう言った
その通りで、店長や雛子にも言われた事
私自身もそうだと思っている、けど

「そういう事じゃないんだろう、お前さんが気にしてるのは」

頭の中で考えていた事を言われて、俯いていた顔を上げる
ホウ統さんが、やけに優しい目をしていてなんだか気恥ずかしい

「相手が何を言おうと自分で自分が許せない……名前殿は難儀な性格だね」

クスクスと笑うホウ統さんに返す言葉もない
さっき会ったばかりだと言うのに、何故分かってしまうのか

「ただ、話す事で少しはすっきりしたんじゃないかい、さっきより楽そうじゃないか」
「え、そう……ですか?」
「ああ、これからは1人になるより人に話すようにしたらいいんじゃないかねぇ」

お酒の入ってぼんやりした頭で考える
確かに、なにかあった時に雛子に聞いてもらうか、そうじゃないかで気分の晴れ方が違う気がする
私は改めてホウ統さんに視線を向ける

「ま、出会ってすぐの奴の言う事だ、聞き流してくれて構わないよ」

なにも言わずに見ていたからか、彼はそう言ってまたビールを一口飲む
私は慌てて頭を下げた

「そんな事出来ないですよ、ありがとうございました」
「礼なんていらないよ、色々してもらってるのはあっしの方だ」

ひらひらと手を振って、手にしていた缶を置く
軽い音がしたので、中身はもう無いらしい

「ごちそうさん、変わった酒だったね」
「他にも色々ありますよ……まあ、ちゃんぽんはやめた方がいいですし、また明日……は、いないのか」
「そうさね、残念ではあるけれど」

ホウ統さんはぐるりと家の中を見回す
最終的には、天井の電気に視線は移された

「この世界のものは、あっしの考えが遠く及ばない……時間があればゆっくりと見たいねえ」
「じゃあ、また来た時に……どうですか?」

私は、自分の発言に驚いた
ホウ統さんも同じように驚いていたけれど、私より先に回復して声に出して笑いだす

「あっはっは、そりゃいいや!」
「あ、えっと、あの」
「また色々と世話になるよと言っておけば、今度来た時にあたふたしないですむね」
「えっと、はい」

私から言ったのだから、頷くしかない
なんでそんな事言ってしまったのかと思いながら、ホウ統さんを見ると、視線が合った
その目が、慈しむような、凄く優しいもので、思わずドキッとする

「まあどうなるかは天のみぞ知るだ、とにかく今日はありがとう、名前殿」
「いえ、此方こそです」

気付けば、凄く気が楽になっている
また来てくれるのも悪くない、なんて思うくらいには、一気に気を許したのは確かだった


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