「陸遜!おい!!」
「……甘寧殿?」

目が覚めると、目の前一杯に甘寧殿の顔があった
気持ちの良いものじゃない
ただでさえ最近は、ずっと女性と一緒だったのに

「…………え、甘寧殿?」
「おう!」
「どうして甘寧殿が此処に」
「どうしてもなにも、俺とお前がぶつかったからだろ」

横になっていた体を慌てて起こす
どうやら私は甘寧殿に支えられていたらしい
立ち上がると、凌統殿もいる事に気付いた
つまり、此処は私がいた時代
名前殿は、此処にはいないという事だ

「軍師殿、大丈夫かい?」

ぼんやりしていた私に、凌統殿が声をかける
彼の方を見ずに1つ頷いて考える
あれは夢だったんだろうか、と
私は甘寧殿にぶつかられて、気絶していただけなのだろう
その証拠に、未だ私の服は土に塗れている
名前殿と共に居たと言うなら、汚れなどないはずなのだ

「甘寧殿、凌統殿、私は気絶していたのでしょうか?」
「あ、あぁ、そうだぜ」
「どのくらいの間ですか?」
「そんなに時間は立っていないよ、甘寧が馬鹿みたいにでかい声で呼び掛けて……三度目で目を覚ましたから」

時間もそうだ
そんな時間でどこに行けるというのか
それだけじゃない、そもそも私は彼らの前から姿を消していないじゃないか

「陸遜、大丈夫か?」
「あんたが言うなっての」

あまりにぼんやりしすぎたんだろう、2人が心配の声を上げる
いつもの笑顔になるように表情を変えて、顔を上げる

「問題ありませんよ、傷なんかも出来ていないでしょうし」

打ったのかもしれない頭に手をやると、胸元で何かかさりと音がした
何か入れていただろうかと、取り出して息を呑む

「陸遜、なんだそれ」
「え、いや、なんでもないんです、失礼しますね!」
「は、ちょっ、軍師殿?」

逃げるように2人の前から走り去る
見てほしくなかったのかもしれない
私には、まだ感情が整理できない

胸元に入っていたのは、名前殿に貰ったマッチだった
私はあの世界に行ったのだろう
数日の間、名前殿の世話になったのだろう
その間ずっと、負い目を感じていたのも本当で、それを名前殿に感付かれてしまった自分がまた許せなくて
名前殿は、私にばかり良くしてくれた
私から彼女に何も返せていない、それどころかろくに礼だって言えていない

――楽しかったです、ありがとうございました

彼女は、たしか最後にこう言っていた
もしかして、私が帰ると知っていたのだろうか
そう思うと、ちょっとばかり怒りもわいてくる
帰してくれたのに、怒るのは筋違いだとは思うけれど

今はまだ、感情が上手くまとまらない
ただ、彼女にありがとうをしっかり伝えたいと思った


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