あのあとは、帰るという甘寧さんと陵統さんに便乗して私も帰ることにした
また遊びに行ってやってよ、と家に入る前に陵統さんに言われたのは何故だろう

そして次の日
今日は仕事だ

私には夢がある
昔から本の虫で色んな物に手を出す、いわゆるオタクだったのだけれど
だからこそ、自分で本屋を営業したいと思うのは必然だと思う
書店経営は特別な資格なんかも必要ないから、後は資金次第
と言う事で高卒から働き初めて早うん年、二十歳を越えてもまだまだ資金は足らないけど、まだまだ若いし時間はある
そもそも今勤めてるのもチェーン店本屋なので、あわよくば新しい店舗を任せて貰えたりしないかなんて思ったりして

「名前ちゃーん」
「はーい、なんでしょうか店長」

そんな邪念を感じた訳では無いだろうけど、突然店長が休憩室に入ってきた
私は今、お昼休憩中だ

「あのね、今日から新人バイトくんが入るからね」
「そうなんですか」

くんという事は男だろうか
飲み物を飲みながら続きを聞く、大体言おうとしている事は分かるけど

「でね、教育係お願いできるかな?」
「了解でーす、辞められない様に頑張りまーす」
「あっははは、名前ちゃんのしごきに耐えられない人なら店に必要無いよ」
「相変わらずナチュラルに酷いですね店長……しごいでないですし、普通ですし」

前のバイトは3日で辞めた、その前は5日、そのまた前は1週間
皆が同じ台詞を吐いて辞めていく、本屋がこんなに大変だと思わなかった
2人目が辞めた時点で店長に聞いた、私は厳しかっただろうか、やりすぎだろうかと
店長は笑って言った
「名前ちゃんは普通に教えてた。あれでやりすぎなら、仕事なんか続けられないよ」
だから私は、教え方を変えていない
というか、変え方が分からないし

「大丈夫、今度のバイトくんは忍耐力がありそうだよ」
「へえ」
「だからいつも以上で大丈夫じゃないかな」
「……それって、俺の話ですよねぇ、もしかしなくても」

店長の後ろの扉が開いて、おっかなびっくりで顔を出した男性
まさかとおもったけど、初めてじゃないし驚きを顔に出さない様には出来るようになっているはず

「初めまして、草間馬岱です……お手柔らかにおねがいしますねぇ」

勿論の事、あの馬岱だった、歳は私と同じくらいだろうか
にへらと人懐こく笑った彼に、私もよろしくお願いしますと返す
くさま、って何だどこから出た
字が定かじゃない人は普通に日本の名字なのかと、そこばかりが気になる

「あとは若い2人に任せるよ、名前ちゃんの休憩終わりと一緒に草間くんは出てきてね」
「はい、分かりました」

店長は言葉の選択を間違ってる
その突っ込みをする前に既にいなかったから、取り敢えず立ち上がろうと机に手をついて

「あ、そのままで」
「え?」

すぐさま止められた
意味が分からなくて首を傾げて馬岱を見ると、にこにこしたまま近付いてくる

「先輩休憩中ですよね、座ったまま指示してくれれば大丈夫ですよお」
「せっ……わかりました、じゃあまずその、先輩はやめましょう、私名字名前です」

学校以外で先輩なんて呼ばれた試しが無いから、なんだか恥ずかしかった
そういや挨拶だけで名乗ってないと気付いて慌てて名乗ると、馬岱さんは何となくさっきまでと違う感じの笑い方になった気がする
ほんのり嫌な予感

「んっふっふ、可愛い先輩で嬉しいなあ……あ、俺は馬岱で良いですよ、敬語も無しで!」

予感は当たってしまった、これはからかうネタに使われそうだ

「……よろしく、草間くん」
「あーれえぇ?」

だけど、大人しくからかわれる私じゃないし
今ので店長が言った通りにビシバシ行くのが確定したので、覚悟しといたらいいんだ

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