体験会でプレイしたゲームは楽しかった、横でひたすら李典さんに電話番号を聞かれなければ
楽進さんが平謝りで凄く可哀相だったのもあって、ゲームは予約しておいた
他に必要な物も買って、あっという間にマンションの正面玄関前
入ってすぐにあるポストを見てから上に行こうとそちらを向くと、立ちすくんでいる人がいるものだから驚いた
呆然としているけど、年は同じか少し下かと言うくらいのイケメンだ
色素の薄い髪と爽やかフェイス、スポーツマンタイプな気がする
まあなんであろうと退いてもらわないと、ポストが確認出来ないんだけど

「あの、すいません」
「え…………あ、俺ですか?」
「はい、ポストを見たいので前を失礼しても良いですか?」
「あっ!す、すいません!」

彼は私に勢い良く頭を下げると、素早く横にずれた
私も頭を下げてポストを確認する、宅配ピザのチラシが二枚入っていた
後で頼もうと手にして、再び彼に視線を向ける

「何か困り事ですか?」
「え?」
「いえ、こんな所に立っていたから」

困った顔のまま、イケメンはあちこちに視線を彷徨わせた後で肩を落とした

「鍵が無くて……」
「じゃあ家に入れないんですか」
「そうなんです……ポストに入れておくって言ってたのに」

私に言っている内に、どんどん涙目になっていくイケメンくん
不謹慎かもしれないけど犬みたいだと思った

「朝急いでたせいで財布も家に忘れて、スイカのチャージも切れて」
「や、厄日ですね」

もう泣く直前である
このままじゃ私が泣かせたと思われるんじゃなかろうか
そうでなくても可哀想で見ていられない

「えっと、私の部屋で良ければ休んでいきます?」
「…………えっ?」
「鍵が開くまでここにいたら寒いですし、飲み物くらいは出せますよ」
「いやでも悪いです!知らない男が女の子の家に上がるなんて!」
「そう思ってくださってるなら大丈夫ですよ」

ね、と言っても唸り続けるイケメンくん
なかなか強情というか純情というか
李典さんの後なのもあって、凄く好感が持てる

「お、いたいた!すまねえ息子!」
「父さん!」

そんな風に考えていた所に乱入したのは夏候淵
私が固まるのとイケメンが笑顔になるのは同時だった
夏候淵が親父って事は、もしかしなくてもこのイケメンは夏候覇だったらしい
鎧じゃないのもあって、気付かなかった

「ひでーじゃん父さん!」
「いや、悪い悪い、悪気は無かったんだって」

やりとりが凄く良い親子でほんわかする
仲良しだなあとにやにやしそうになる口元を必死に隠していると、夏候淵が此方に気付いて

「お……息子、もしかして彼女か?」
「なっ、ばっ、違うって!!」

真っ赤な顔で慌てる夏候覇は、私の中で純情と確定した
にやにや笑っていた夏候淵がなんだと呟いて私へと視線をむける
自己紹介のチャンスだ

「私もこのマンションに住んでるんです、名字名前と言います」
「おーそうかそうか!で、息子とはどういう関係なんだ?」
「関係……えっと、先程知り合ったばかりで、名前も知らないですね」

夏候淵は首を傾げる
今の説明では全く分からないなあと、自分で言っておきながら苦笑するしかない

「困ってるみたいだったので声をかけたんです」
「名字さんは俺を助けてくれようとしたんだよ」
「そいつはすまなかったなあ」

そう言って私の頭をぽんぽんと撫でる夏候淵
この年になると、頭を撫でられる事なんてないのでちょっと照れる

「おっと、名乗ってなかった!俺様は夏候妙才ってんだ」
「よろしくお願いします、夏候さん」
「あ、お、俺、夏候仲権!」
「夏候さん……えっと」

家族ってことは、当然名字が同じっていう事だ
そうなると判別しづらいなと思っていると、夏候覇がにっかり笑った

「俺のことは仲権で良いですよ!」
「じゃあ私も名前でいいですし、敬語でなくて良いですよ」
「そ、そうか?じゃあ名前、そうさせてもらうよ」

その方が楽だ、と笑う夏候覇、仲権は可愛い
ふーん、と急に声を出した夏候淵さんはニヤニヤ笑っている

「春は近いな」
「とっ、父さん!」

初対面で話してるだけで春が来るなら私には今頃彼氏がいるはずだよね……なんて、口には出さないけど
大体こんなイケメンに並ばれたら私は掻き消えてしまう

「じゃあ俺様は仕事に戻るな!」
「夕飯は適当でいいだろ?」
「おう、期待してるぜ!じゃあな名前ちゃん」

また私のまわりに料理男子が増えた事による絶望感など知りもしない夏候淵さんは手を振って走り去る
私と仲権も手を振って見送った

「さて、帰ろうか」
「そうだな、ありがとう名前」
「え?」
「知らないヤツにわざわざ付き合ってくれるなんて、名前は良い奴だな」

イケメンの笑顔眩しいです
乗り掛かった船で、そんなに礼を言われることじゃ無いのに
エレベーターに乗って、携帯のアドレスを交換して別れた

ふと仲権が無双キャラで初めてアドレスを交換した人だなと思い至る
これからも増えるのかなあとぼんやり考えながら携帯を閉じた

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