職場見学、という行事がある
仕事場を見て、これからの事を決めるのが目的……とするには、一か所にしかいけないんだから少な過ぎるけど
行きたい所に行くんだから目標に近付くとか、そういう事なのかもしれない
とは言え
学生の時分にそんな行事に熱心に取り組むのは一握りの生徒だけだ
大体は、学校で授業しなくて済むと喜んでいて、やる気なんか無い
ある意味、私もそうなんだけど
やりたい事は決まっている、高校を卒業したら大学に通いながら秘書の仕事を勉強したいから
だから、というのもあった
『行く所決まらないなら、大使館行く?』
うっかりそんな事を言ってしまい、行く事に決まってしまって今に至る
「うんうん、勉強熱心なのは良い事だね、これあげるよ、我が国のクーポンだから」
「あ……どうも」
友達は、兄さんにクーポン券を貰って、どうしようと言う顔を此方に向けた
私含めて五人のグループの内、三人は今マニィに話を聞いている
トイレに行くと席を立って、その帰りに兄さんにクーポンを貰っている彼女は香澄さん
彼女が、あまりにも遅いから私が捜しに来たのだけれど
「兄さん、彼女困ってるじゃない」
「名前、そうかい?」
「そうよ」
兄さんは私と香澄さんを交互に見ると、困った様に笑った
「ごめんね」
「い、いえ……」
香澄さんは、何故か顔が赤い
……まぁ、別に良いや
彼女に戻ろうと声を掛けると、兄さんも着いて来た
当然とでも言う様に、私の手を握る
「兄さん、仕事は?」
「終わったよ、終わり次第僕も参加する予定だったのさ」
「そうだったのね、マニィも言ってくれれば良いのに」
そんな、他愛も無い話をしながら
皆が待つ部屋へ
その間も香澄さんはずっと兄さんを見ていた
「あたし、恋の迷路に迷い込んだみたい……」
授業が終わって、学校へ戻って来ると香澄さんが言った
「はぁ?」
「また始まったか……」
そう言うのは、榊くんと赤木くん
また、と言う事は何度かあったのかもしれない
どう反応した物かと思っていると、隣にいたスズナが笑った
「気にしない方が良いよ、名前ちゃん……香澄ちゃんのこれは何時もの事だから」
「そうそう、どうせすぐに治まるから気にすんな」
まるで病気の様に言うスズナと榊くん
榊くんの隣にいる赤木くんは溜め息をついている
「前にダミアンさんが名前を迎えに来た時からこの恋の序章は始まっていたのよ……」
「……つまり榊が最初から捕まえておけば問題など」
「何言ってくれちゃってんだお前」
段々漫才の様になってきた
榊くんの顔が赤いと言う事は、赤木くんの言ってる事は大体合ってるんだろう
「名前、ダミアンさんについて教えて!」
「……ええー」
だけど、香澄さんは聞いて無かったらしい
榊くんは安心した様子、赤木くんは私に可哀相にとでも言いたげな視線を向けている
「えー、えーと、うーん」
「ほら、名前ちゃん困ってるよ」
「そうだ、大体まだ聞いて来た事のまとめが済んでいないだろう」
私への助け船を出してくれたスズナと赤木くんのおかげで、香澄さんはなんとか諦めてくれたらしい
渋々まとめを書き始めた
兄さんについて聞かれる日が来るなんて思わなかった
今までも、女の影なんて無かった人だし
こういう事には縁が無いと思っていた
正直、もやもやする
……変な感じだ
香澄さんの迷路の出口が見つかれば、私のもやもやも解決出来るのか
「どうした、名前」
「え……あ、なんでもない」
赤木くんに声を掛けられて、私の思考は中断する
何を考えているんだか
兄さんも良い年だ
恋愛相手の心配してやるくらいが丁度良いと思い直す
そうだ、後でこの話をしてみよう
兄さんだって考えざるを得なくなるはずだし
それで姉さんが出来るなら、きっと良い事だ
……流石に、香澄さんは若すぎるけどね
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