「名前ちゃん、またね」
「うん、また明日」

学校帰り
友達のスズナに声を掛けられた私は手を振って、彼女を見送った
まだ教室、特に用事があった訳ではないけれど急いで帰る用事もない
ゆっくりと帰りの準備をしていた私の耳に、聞こえた誰かの話し声

「なんか、金髪の男が校門の前にいるぞ」
「えー……わ、ホント……格好いいじゃん!」
「…………そうか?」

金髪は、日本では珍しい
街を歩けば一人は見るだろうに、未だにそういう風潮が抜け切らない日本は面白いな
と思いながら、私は窓に目を向け
勢いよく立ち上がった

「……名前、どうしたよ?」
「虫か何かいた?」

窓の外を見ていた榊くんと香澄さんが驚いている
大きな音をたてたんだから当たり前だけど

「え……いや、何でもない、ごめんね驚かせて」

ゆっくりしていた帰る準備を、急いで済ます

「じゃあ、また明日!」

二人に挨拶をして、走って私は教室を出た
向かうは校門、珍しい金髪
見間違いで無ければ彼は

「兄さん!」
「名前、待ってたよ!」

私に向かい手を広げて待つ兄さんの手前で止まり、私は辺りを見渡す
思った通りに大きな車
兄さんの手を取って、私はそちらに向かう
車は中が見えない様になっていて、全ての窓が閉まっていたけれど
歩道側の窓を叩いて、開くのを待つ
左側の窓が開いて、見えた顔

「マニィ、どうして兄さんと此処にいるの」
「外に出る用事があったもので……ダミアン大使がどうしても名前さんに会いたい、と」

しれっとした態度のマニィを一発殴りたかったけれど

「とりあえず乗せて、目立って仕方無いわ」
「ええ、それはもちろん」
「さぁ、此方にどうぞ」

兄さんが後ろのドアを開けている
私は急いで飛び乗った
兄さんが乗って、車は発進する

「……で、どういうことなの?」

足を組んで、背もたれに沈む
凄く偉そうな、不遜な態度だと思うが、隣の兄さんは気にしていない
いっそ嬉しそうなのがなんだかなぁ

「さっき、マニィが伝えた通りだよ」

至極当然の様に言ってのける兄さんに、若干の目眩を覚える
それが分かっているであろうマニィは、はははと乾いた笑い
だったら連れて来るなよ

「今日も、大使館に来てくれるのなら迎えに行った方が良いだろうなぁと思ってね」
「その時間を仕事に当てなさい」

私の言葉に、うっと言葉をつまらせる兄さん
バックミラーに映ったマニィが、満足そうに笑っている

「今日は会ったんだし、大使館では会いに行かないから」
「え……そんな……!」

車であれば、そんなに長くない大使館への道のり
私が告げた一言に、兄さんがショックを受けた所で大使館へ到着した

「じゃあ、仕事頑張って」
「名前、待って!」

マニィが開いてくれたドアから、私はさっさと降りる
それに続いて……というか、私を追おうとした兄さんはマニィに捕まっていた

「逃がしません、名前さんの言う事を守らないおつもりで?」
「う……」

どこか甘くて頼りなく見える兄さんも、仕事となればきちんとしている
私が言った事なら尚更

「ちゃんと仕事が終わったなら、明日会いに行くわ」

だから、私はそう伝える
兄さんに、会いたくない訳はないんだ
でも今日は、我慢して貰う

そう思っていたんだけど

「あ、名前ちゃん、昨日金髪の男の人に連れ去られたって聞いて心配してたんだよ!」

それは、次の日に友達に言われた一言

「あ、いや……大丈夫よ、うん」

恥ずかし過ぎた私は、会いに行くのを急遽止めた
少し、兄さんは反省するべきなんだと言い聞かせて

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