「こんにちは、お嬢さん」
「は…………え、と」
大使館の廊下、inアレバスト領
いつも通り学校帰りに寄った所、なんかもう気味が悪い位に爽やかなお兄さんに声を掛けられた
中にいる、と言う事はお客様なのだろうけれど
「ああ、ごめんよ……ボクは優木誠人、検事をしているんだ」
「検事、さん」
わざわざ大使館に来るとは思えない人が来ている
そう考えたら、検事さんは困った様に笑った
なんだかいちいち動作が芝居染みている
「うん、ボクが此処にいるのが変なのはわかるけど……はっきり顔に出されると悲しいな」
「す、みません」
正直しまったと思ったけれど
謝ったらすぐに始めと同じ態度になった検事さん、特に気にして無いらしい
「じゃあ名前ちゃん、まずは握手だ」
「……名前ご存じだったんですね、すみません名乗りもせずに」
「良いのさ、急に声を掛けられたら警戒して当然だからね」
無下に出来ないと握手に応えると、彼は満足そうに頷く
手を放したら、ばさばさと持っているジャケットを着たり脱いだりした
なんだっていうんだ
「……おや優木くん、こんな所にいたのかい」
「カーネイジ大使
……すみません、遅くなりました」
「義父さんのお客様なの?」
ゆっくりと杖をつきながら、私の隣に並んだ義父さんは頷いた
「大事なお客様でね……娘が粗相をしなかったかい?」
「ええ、とてもよく出来た娘さんですね」
検事さんの言葉に、義父さんは満足そうに私の頭を撫でてくれた
「名前は、私の自慢の娘なのさ」
「あはは、そうでしょうね」
二人にそんな手放しで褒められると流石に照れる
「ボクには娘としては早いし……そうだな、名前ちゃんが妹なら良いのに」
「名前は僕の妹だよ!」
検事さんの後に続いた言葉に、驚いた
神出鬼没というか……何故いるんだ、と思うのは何度目だろう
「……兄さん」
「どうしたんだねダミアン大使」
検事さんは、鳩が豆鉄砲くらったような顔をしている
当たり前か……兄さんとは初対面だろうし
「あ、マニィから書類を預かって参りました」
「マニィくんから?」
「ええ、外せない用事があるからと……この封筒に必要な物は入っているそうです」
何故に大使が秘書に使いに出されてるんだ
というのはなんとか飲み込んだ
「……分かったよ、すまなかったね」
「いえ、名前に会えましたし、お安い御用です」
封筒を受け取った義父さんは、私に向き直った
「名前、兄上とお茶でもしていなさい、私は優木くんと話があるから」
「わかりました、兄さん行きましょう……失礼しますね、優木検事」
私が頭を下げると、検事さんは手を振った
「誠人兄さんって呼んでくれていいのに」
「あはは、やきもち焼きの兄さんがいるので今日の所は止めておきます」
そしてダミアン兄さんの手を取って歩き出す
不服そうだった兄さんも手を繋いだら笑っていた
我が兄ながら単純だ
「珍しいお客様だね」
「うん……」
そう、検事だと彼は名乗った
義父さんが何かをするとは思えない、強い人だから
そんな、私が不安に思っている事が伝わったんだろうか
「大丈夫だよ」
兄さんは、私の頭を撫でてくれた
手を強く握りなおして、笑顔を向けて来る
「カーネイジ大使は、名前の義父さんは悪い事をする様な人じゃないだろ?」
「……うん、そうだよね」
私も兄さんの手を強く握る
励ましてくれるのが嬉しかった
「兄さん、今日学校でマドレーヌ作ったの」
「美味しく出来たのかい?」
「食べればわかるでしょう?」
私の言葉に、兄さんは嬉しそう
考えてみれば、兄さんにあげるのは久々な気がする
「全部食べちゃ駄目よ」
「カーネイジ大使の分も、だろう?」
「そういうこと」
久し振りの兄妹の時間
今日は凄く楽しめそうな気がした
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