学校の宿題というのは、面倒な物だと思う
家で勉強したくない私は、なるべく学校で宿題を終わらせるのだけれど、今日は量が多過ぎた
いつも通り、大使館の一部屋を使うという贅沢スキルを発動して机に向かっていたのだけれど
「名前ー!」
バタンと音を立てて開いた扉に、遮られる事になる
私は驚いて、言葉も出ない
「見ておくれよ、これ日本の北国のお土産なんだよ、木彫りの熊っていうのがハイセンスだと」
「兄さん」
まくし立てる兄に呆気に取られながらも、なんとか何処かへ行っていた意識を持ち直した
私が呼んだ事で、兄さんは喋るのを止めている
「あのね、此所はアレバスト領よ?」
一応コードピア公国とはいえ、内部分裂している違う国だ
そんな所に簡単に、大使である兄さんが来て良いとは思えない
「大丈夫、仕事で来たんだ」
「……そうなの?」
私のノートの隣に、兄さん曰くハイセンスな熊を置いて書類を取り出す
どこに持っていたのかという問いは、この際忘れようと思う
「カーネイジ大使も僕も、二つに分かれているのは嫌でね」
「アレバストとババルが、また一つになるの?」
笑顔で頷く兄さんに、抱き付きたい気持ちをなんとか抑えた
それは、とても良い事だ
一々、国を行き来する必要も無くなる
「これも名前のおかげだよ」
「……なんで、私の?」
「カーネイジ大使は、僕が思ってた以上に名前の事を大事に思ってるみたいだ……って言ったら、分かるんじゃないかな?」
それが、どうして両国間の親睦に繋がるのか
色々考えて
「…………私が、二つの国を行き来しなくて良い様に、って事?」
そういう結論に辿り着いた
まさかとは思ったが、兄さんの笑顔が深まったので当たりらしい
「頭の良い名前にはババルインクをプレゼント、勉強に使いなよ」
今現在、勉強に万年筆を使う人は限られていると思う
現に私もシャープペン使ってる訳だし
まぁ、言わないけど
「……ありがとう、仕事は時間大丈夫?」
「あぁ、もうすぐだ……もう少し話していたいんだけど」
「行きなさい」
私の言葉に、泣きそうな顔をした兄さんはとぼとぼと扉へ向かい
「そうだ、帰りに寄るからね!」
そう言い残して、落ち込んだ様子も残さずに背筋を伸ばして出て行った
……めげない人だ
私は、勉強を再開……というわけにはいかない
携帯を取り出して、アドレス帳で目当ての人物を探しコール
「……もしもし、マニィ…………あぁ、違うの兄さんじゃない……執務室に参考用の日本土産あるじゃない?
新しいの無くなってないかしら」
少し待って、受話器からマニィが息をのむのが聞こえた
青くなってはいないだろう、きっと彼も犯人は分かっている
「あのね、その泥棒は今アレバストにいるわ、仕事中だから出て行ったけど帰りに私の所に寄るみたいよ」
私にマニィは割と楽しそうに言葉を返してくるけれど、たいそう御立腹だとわかる
彼は、怒ると笑う
そのままネチネチいびられる
「とりあえず、これは泥棒に持って帰って貰うわ……こっちにあっても困るもの
それじゃあ、たっぷり絞ってあげて頂戴ね」
電話を切って、溜め息をつく
困った兄だけれど、嫌いにはなれない
向こうに帰ったらマニィが怒るのだし、仕事が終わったら
……とりあえず、お疲れ様とでも言ってあげようと思う
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