Kismet (蒼いくちづけ)
「恭弥は…、運命を信じる?」

 雲雀は片眉を吊り上げた。

「…。僕は眼の前の真実と、それに基づいた努力の結果しか信じないね」

 ベッドから少しだけ身を起こした美凰は、くすりと艶やかな微笑を漏らした。

「そうね。恭弥は…、いつでもそうですわね…。いいわ…。美凰が二人分…」
「けど…、君の事に関してだけは…」
「わたしの事?」
「うん…。運命を信じる…」
「恭弥…」
「君は…、僕の運命だ」
「…、嬉しい…」

 雲雀と美凰は頭を擦りつけ合い、もう一度、唇を合わせた。



 美しい花顔を大きな手で包みこんだ雲雀は優しく、そして貪欲に甘い唇を求めた。
 美凰は雲雀の鍛え上げられた胸に手を広げて身体を摺り寄せると、彼の愛撫を積極的に促す。
 男の舌が女の口腔に滑り込み、熱い舌が情熱をこめて優しく中を探る。
 つい今しがた、自分の腕の中で身悶え、蕩けていった恋人の艶姿を思い出しつつ、雲雀は甘くて熱い美凰の口腔をゆっくりと舐め辿り、彼女の身体をそっと横たえた。
 昨日、瀕死のクロームの為に霧系のリングで内臓幻覚を創る際、特別に輸血を申し出くれた為にかなりぐったりしている恋人を慮り、過度に触れぬ様にしようと思っていたのだが、連日における沢田綱吉の指導に雲雀の身体はアドレナリンが放出しっぱなしらしく、疲労困憊の身体でありながら美凰を求める心が抑えきれないでいた。
 むき出しにされた白い繊肩に置かれた雲雀の手を、美凰はうっとりと見つめた。



 大きくて骨ばっていて、指が長い。
 そして何よりも温かく、美凰の心に安らぎを与える…。
 トンファーを操って出来る手の胼胝さえ、彼女にはたまらなく愛しかった。
 一方、雲雀の手をそっと撫でさすっている美凰の手は、相変わらずすべすべとして柔らかい。
 そして何よりも温かい。
 十年前に手に入れたこの温かさを失う気は…、毛頭なかった。

「愛しているわ…」
「愛してるよ…」
「絶対に…、離さないで…」
「莫迦だね。誰が離すと思うの? 君は僕だけのものだよ…」

 そう答え、雲雀は花弁の様な美凰の唇を見つめた。

「……」

 どちらからともなくキスを求めるや、二人の唇は熱く重なり合った。
 柔らかな背中を優しく撫でつつ舌を絡め取ると、美凰がとろりと蕩けてゆくのが解る。
 目元をほんのり染めながらも甘い舌を絡めてくる美凰が愛おしくて、雲雀は目を細めた。
 美凰は優しくゆったりとしたキスが大好きなのだ。
 雲雀が口内を緩やかに舐め上げてなぞり、舌を絡めて、優しく触れれば触れるほど陶然となっていく。
 それに気づいたのはいつだったか。
 もう随分前のことだったと雲雀は記憶しているが、今日はことさらに優しく美凰を抱きたかった。



 ミルフィオーレとの闘いが間近に迫っている。
 白蘭から彼女を守り抜く為、このアジトには幾重もの防御を廻らせ、赤ん坊にも万が一の迎撃を依頼している。
 今は些か弱っているものの、基本的に美凰や哲を含む、一握りの他者しか信じぬ雲雀にとって、リボーンの人格と絶対の腕、そして美凰に対する愛情は不可欠のものと言っても過言ではないのだ。

「怖いわ…」
「美凰…」
「あなたと離れ離れになることが…、怖いの…」
「心配しないで。ほんの少し我慢してればいつもの日常が帰ってくる。全てが片づいたら…、黄色い子達を連れて、Bad IschlのKaiser villaにでも行こうよ。それともmaldivesで島を貸切にして過ごすかい?」
「……」

 今は何も思い悩ませたくない。
 自身の腕の中で、思い煩う暇もない程に蕩けさせたいと願う雲雀であった。

「愛しているわ…、恭弥…」
「愛してる…、僕の美凰…」

 優しく触れれば触れる程、美凰は身悶える。
 身も世もなく蕩けていく。
 雲雀は優しく、そしてこの上もなく貴重な存在として美凰を抱きしめていた。

〔どんな事があっても君を守る…。そして…、君の許に還ってきて…、僕は“蒼いくちづけ”を受けるよ…。愛する君と、永遠に共に在る為にね…〕

 雲の守護者は自身のKismet(運命)たるただ一人の恋人に、ありったけの愛を誓いつつ強く強く抱きしめた…。

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