有言実行?! (並盛Romance)
 その日は朝から身体の節々が痛かった。
 でもそれはあまりにも微かだったので、そう気にも止めていなかったのだ。
 例によって例の如く、授業も殆ど受けずに応接室で慌しく過ごし、雲雀に言いつけられていた仕事を終了させた後はぼけぼけとノートPCに小説を打ち込みながら、町内視察に出向いた彼の帰りを待っていた美凰の背中をゾクゾクと寒気が襲った。

〔こ、これはもしかして…〕

「っく、しゅっ! へっ、くしっ!」

 下校時間もとっくに過ぎていた並盛高校応接室内で、花總美凰は大きなくしゃみを続けて2回した。

「あれ…、風邪か、な?」

 一人で呟いて思い返して見るが理由が見当たらない。

「周囲に風邪ひいてる人なんか居なかったけどなぁ〜」

 考えている内にどんどん寒気が強くなってくる。

「これはちょっとヤバイねぇ…」

 ちらりと時計を見ると、針は午後6時15分を指している。
 携帯を取り出した美凰はぽちぽちと雲雀宛にメールを打つと、早々に帰り支度を始めた。


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from 美凰
件名 お疲れさま〜
Date 01/09 18:15
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 恭弥くん。
 遅くまでお疲れさ
ま。

 ちょっと風邪っぽ
いから先に帰るね。
 待ってられなくて
ごめん。
 戸締りはきちんと
してるから、今日は
まっすぐお家に帰っ
てね。

 また明日〜



 ふらふらと家に帰りつくと、とりあえず途中のコンビニで買ったアルミ鍋の鍋焼きうどんを火にかけた。
 その間にパジャマとあったかいフリースのガウンに着替え、救急箱から体温計を取り出すとソファに深く腰掛けて、体温計をわきに挟む。
 ふはぁーと大きく溜息をついて、眼を閉じる。
 PiPiPi…
 電子音を聞いて、そっと取り出すと38度2分。

「うおっ…、参ったなぁ…」

 平熱が35度3分程度の美凰には随分ときつい。
 まだ寒気は続いているし、熱はこれからまだ上がりそうだ。

「ひっ、っくしゅっ!」

 またひとつくしゃみをして、キッチンに行くとコンロの火を消した。
 うどんを半分だけ食べて残りを小鍋に移し、常備していた風邪薬を飲んだ美凰は熱いシャワーをさっと浴びてから早々にベッドに入ると毛布にくるまり、掛け布団を頭までかぶってから眠りについた。

〔とにかく寝るに限るよ…、こういう時は…〕

 遠ざかる意識の中で、恋人のハンサムな顔を思い浮かべる…。

〔メールの返事、きてるかも…。まぁ、いっか…。だって恭弥くん、ここんとこずっとうちに入り浸りで全然家に帰ってないし…。いくら婚約してるからっていっても、これを機にちょっとは自宅に落ち着かせた方がいいもんね。明日…、明日になったら元気になってるだろうから…。今は寝かせて貰おう…。ごめんね、恭弥くん…〕

 リビングに置きっぱなしにしていたと思しき携帯の事が気がかりだったものの、美凰はそのまま眠りに落ちていった…。


18:20
不在着信 1件
恭弥くん

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from 恭弥くん
件名 Re お疲れさま〜
Date 01/09 18:25
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美凰、大丈夫なの?
すぐ帰るよ。
応接室で待ってて。
送るから。


18:30
不在着信 1件
恭弥くん

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from 恭弥くん
件名 Re お疲れさま〜
Date 01/09 18:35
--------------------
ねえ、返事してよ
大丈夫なの?


18:40
不在着信 1件
恭弥くん

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from 恭弥くん
件名 Re お疲れさま〜
Date 01/09 18:45
--------------------
電話でてよ
今どこ?
病院行くの?


18:50
不在着信 1件
恭弥くん

--------------------
from 恭弥くん
件名 Re お疲れさま〜
Date 01/09 18:55
--------------------
もう家についたの?
だったら今から行く



19:00
不在着信 1件
恭弥くん

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from 恭弥くん
件名 Re お疲れさま〜
Date 01/09 19:05
--------------------
なんで電話に出ない
の?
いい加減にしなよ


19:10
不在着信 1件
恭弥くん

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from 恭弥くん
件名 Re お疲れさま〜
Date 01/09 19:15
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もう怒った
覚悟しろ


19:20
不在着信 1件
恭弥くん

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from 恭弥くん
件名 Re お疲れさま〜
Date 01/09 19:25
--------------------
お願いだから電話に
出ろ


以下略…。



 携帯が延々とこんな状態になっているとは露知らず、美凰はうんうん言いながら眠りについていた…。



「んふっ?! ふんうぅぅぅっ?!」

 突如として身の内に起こった息苦しさと身体の重たさにふと目覚めた美凰は、ぱちくりと眼を見開いた。
 目の前に悲愴な形相をした雲雀がいて、彼の唇に自分の口がむぎゅっと塞がれている…。

「んーっ…、んんん?」
「良かった! 目が覚めたよ!」

 唇を離した雲雀は、はぁーっと安堵の吐息をついた。

「あ、あれっ? き、恭弥くん?」
「あれ?じゃないでしょ! なんなの君!」
「ほぇ? な、なんなのって…」
「物凄く熱いよ! 薬飲んだの? 食事は?」
「う、うん。うどんを少し食べて薬飲んだよ。だ、大丈夫…」
「なんで電話にでないの! 僕がどれだけ心配したか解ってるの!」

 そう言って目の前に翳された携帯電話が美凰の手の中に押し込まれる。
 熱い掌に携帯がひんやりとしていて心地よかった。

「ご、ごめ…。気がつかなかっ…、ひゃっ?!」
「…、美凰」

 雲雀の手がいつの間にか美凰のパジャマの裾から入り込み、素肌の背中を撫でていた。

「っ、ちょっ、恭弥くっ」

 最初は吃驚したものの、その冷たい掌が熱っぽい身体に心地よくて…。

〔でもでも、何をしてるの〜 この人ってばぁ〜〕

 高熱で呆然としている美凰に構わず、雲雀は上体を美凰の上に凭せ掛けながら呟いた。

「ホント、怒った! なんで僕に断りもなく病気なんかになるの!」
「い、いやいや…、そ、そそそ、そんなこと言われても…」
「あんまり心配させないで…」
「き、恭弥くん…」
「美凰…」
「ごめんね? メールじゃなくて電話すればよかったね。ホントごめん…」

 何度も名前を呼ばれ、背中を撫でられていた美凰は仕方なく雲雀の頭を熱い掌で撫でてやる。
 暫くそうしていると「美凰、挿れたい…。挿れさせて?」と、耳元で雲雀がぽつりと言った。

「は? は、ええっ?」

 美凰は慌てたが、雲雀の手は背中から下へと降りようとしている。

「ちょ、ちょっと恭弥くんっ!」
「駄目?」
「や、あ、あの駄目とかじゃなくて…」
「いやかい?」
「だ、だから、そ、そうじゃなくて…、わたし風邪ひいて…」
「解ってるよ。だから僕が吸い取ってあげる」
「は?」
「君の熱と風邪菌全部…」

 雲雀はそう言うと、布団をはいで美凰の上に覆いかぶさる。
 美凰は思わず顔を上げて、雲雀の顔を見た。
 欲望に濡れた黒い瞳が彼女を見つめている。
 その瞳があまりにも官能的で、美凰は目をそらせなかった。

「だ、駄目だよ…、恭弥くん…、うつっちゃう…」
「うん…、いいよ。僕が代わりに風邪ひいて、美凰にいっぱい看病して貰うから」
「はぁ?」
「だから…、美凰の熱を鎮めさせて?」

 そう言うと雲雀の手がパジャマと下着の中に潜り込み、美凰の中心をすっとなぞった。

「んっ!」

 思わず声を漏らすその唇を、雲雀のそれがそっと塞ぐ。
 熱のせいで乾いた唇を割られ、自身のよりもずっと熱い雲雀の舌が美凰の舌を絡め取るのを感じる。

「んっ、ん…」

 その間も雲雀の手は美凰の中心にいて、長い指を何度か前後させ、時折花芽を強く擦り上げる。

「ぅんっ! ぁはっ…」

 病身だというのに身体が感じる心地よさ。
 甘い声を漏らして仰け反った美凰の首筋に唇を寄せてきつく吸うと、雲雀は彼女のパジャマを下着ごと脱がし、自分も制服のスラックスをあっという間に脱ぎ捨てると、まだ完全に濡れていない女の秘孔へ、勃ちあがった自身をずくっと挿入した。

「んあっ! つっ!」

 あまりにも熱い肉が、秘肉を引きつらせながら奥へ奥へと入っていく。

「いっ! はあぁっ…」

 充分に濡れていないせいで、繋がった箇所に痛みが走る。
 雲雀は高熱と快楽と痛みに涙ぐむ美凰の眦にくちづけ、その身体を強く抱きしめて更に深奥を目指した。

「…、美凰、ごめんっ…」
「ああっっ、はぁっ…」

 自分の身体が、中から蕩けてしまいそうだ。
 痛みは徐々になくなり、快感だけが押し寄せる。
 雲雀が律動を繰り返し、熱い指で花芯を擦り上げると、美凰はあっと言う間に高みへと昇っていった。

「はあっっ、いっ、んんっ」

 甘い声を出し続ける美凰の唇を、雲雀がまた塞ぐ。
 熱い舌を絡めながら花芽に触れていた指は離れ、豊かな胸をやわやわと揉んでいる。
 あちこちから湧き上がる快感に耐え切れず、高熱を発しているというのに、美凰は雲雀の身体に腕を廻してしがみついた…。

「美凰…、美凰…、好きだよ…」

 雲雀は譫言の様に彼女の名前を呟きながら律動を早めていく。
 自分がどんなに我儘で身勝手な事をしているのかよく解っている。
 でも抑えきれない…。
 風邪をひいて辛いだろうに、雲雀のなすままに組み敷かれた彼女は甘い声を出し続け、しっかりと彼にしがみついている。
 快楽に溺れている花顔が見えないのが寂しくて、雲雀は少し身体を離して赤くなっている美凰の顔を覗き込んだ。

「…、美凰…、僕を見て?」

 熱のある潤んだ瞳で見あげられると、雲雀は躊躇することなく、その柔らかい唇を貪った。

「んんっ、はぁ、うっん」

 美凰の甘い声が直接、雲雀の頭の中に聞こえる。
 堪えきれずに激しく舌を絡め、腰を突き動かした雲雀は美凰の最奥に白濁の欲望を放った…。



 器を繋げたまま、雲雀は身体を横たえた。
 荒く息を吐く彼女の身体をぎゅっと抱きしめる。

「ごめん…。またやっちゃったね…」

 怒り半分の欲望がおさまったらしい雲雀の謝罪は、美凰の耳には届いていなかった。

「…、もう、いいよ…、このまま…、ねる…」

 美凰はとろんとした顔のまま、うふふっと笑って静かに眼を瞑ると呟く様にそう言った。
 本当にこのまま寝てしまいそうな感じだ。

「えっ? 駄目だよ。色々、あの…、拭いてから…、パジャマも着ないと…」
「やだ…。もう…、このままでいい…。きょーやくん、きもちいいし…」
「ワォ! 嬉しいよ…、って言ってる場合じゃないね…。えっ?」

 離れようとしたものの、美凰が熱く雲雀を締めつけて離そうとしない。

「あれっ? ちょっ、美凰?」

 美凰の身体の中にはまだ雲雀が挿入されたままで、一度放った筈のそれは、まだ熱も硬さも失っていなかった。
 搾り込まれる様な中の蠢きが、さざなみの様な快感を雲雀を疼かせる。

「ん…、おやすみ、なさ…」
「い、いや、おやすみって…、僕、気持ちいいまま、このまま生殺しなの? ねぇ、まだあともう一回ぐらい、全然いけるんだけど…」

 困った顔で美凰を見おろすと、彼女はもう眠りに落ちた様子だった。
 小さな寝息が聞こえる。

〔そりゃ…、誘ったのは僕だから…、美凰がいいんならこのままでいる方が、僕は嬉しいけど…、いや、やっぱりこのままってのは、ちょっと酷いんじゃないかな?〕

 雲雀はどうしていいか解らない様子で、それでもにじみ出る嬉しさを露に熱い美凰の身体に腕を廻すと、自分もそのまま、えいとばかりに眼を閉じてしまった…。



「ふわぁぁぁっ…。よく寝たぁ〜 う〜ん…、昨日は辛かったけど、結構すっきりしてるねぇ〜」

 午前6時30分。
 いつもの起床時刻に目覚めた美凰の身体は、熱による関節痛を発していたものの元気そのものだった。

「鼻水も咳もなかったから、結局風邪じゃなかったのかなぁ〜 って、あれっ?」

 素っ裸の自分の姿と、隣でうつ伏せに眠っている素っ裸の雲雀を眼にした途端、昨日の記憶が朧げに蘇ってきた美凰はぶわっと顔を赤くした。

「な、なんだなんだ〜?! な、なんかもう色々とこう…、ぬるぬるというか、かぴかぴというか…」

 慌てて脱ぎ散らかしていた衣類を身にまとうと、美凰は雲雀をそっと揺すぶった。

「き、恭弥くん…、なんか色々羞かしいんだけど…、とにかく朝だよ? そろそろ起きないとって…、あれ?」

 雲雀の肌の感触が随分と熱く、息が少し乱れている様子に美凰は愕然となった。

「き、恭弥くん? なんか凄く熱いんだけど…」
「あ、おはよ…、美凰…。僕、有言実行だよ…」
「は?」
「…、風邪…、どうやら僕にうつったみたい…」
「ええぇぇっ?!」
「だから今日は僕の看病の為に休みなよ。哲には僕が連絡入れるし…」
「はぁ…」
「僕…、鰹出汁の餡がかかったおじやと、苺食べたい…。あと、美凰の作ったミルクプリンも…」
「……」

 我儘な要求だけ告げてふうふう言い出した恋人に、美凰はがっくりと項垂れた。

〔まったく! こういう有言実行はしなくていいのに! 莫迦恭弥くんめっ!〕

 そう言いながらも、美凰は愛する雲雀の看病の為にあたふたと活動を開始した…。



 ※美凰が昼頃になって所用で携帯を開き、昨日の雲雀からの連絡が一時間の間にメールと着信、通算二十回という状況を確認した瞬間、彼を愛してはいるものの些か引き気味になっていたのは内緒…。

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