委員長夫人の妊娠疑惑?! (委員長のお気に召すまま?!)
『花總さん!』
『はい! 何でしょうか? 事務局長』
『これひとつだけで申し訳ないんですが、ラ・ナミモリーヌの“蕩けるプリン”。お好きですか?』

 美凰はうっとりとした表情になった。

『だ、大好物ですっ!!!』
『じゃ、どうぞ! いつもヒバリ君のストッパーになってくださっている貴女に教職員からのささやかな感謝の気持ちですよ。あ、でも、ヒバリ君にはくれぐれもご内聞に…』
『は?』
『いやぁ〜 貴女にかまっている所を知られると、色々と不都合がありましてね…』
『はあ…』



 プリンのお礼を述べる美凰に小さなケーキボックスを手渡した後、周囲をきょろきょろ見廻しながらそそくさと立ち去る事務局長を、彼女は苦笑しながら見送った…。
 ラ・ナミモリーヌの“蕩けるプリン”は雲雀も大好物のお菓子である。
 だが、ここにあるのはたった1個。
 そして美凰は今、どうしてもこのプリンが食べたかったのだ…。





「姐さん! 委員長からそろそろ戻られるとのご連絡が…」

 給湯室で美凰の背姿を発見した草壁は、いつもの様にお茶とおやつの支度を手伝おうと姿を現した。

「うっ! うっぷっ…、げふっ…」
「あ、姐さんっ?! どうなさったんですか?! ご気分でも?!」

 目の前の美凰は胸をさすり、口許を押さえつつ気分悪げにうぷうぷ言っている。

「あ、姐さんっ! まっ、まさか?!」

 空恐ろしい超直感が草壁の脳裡を駆け巡る。
 こっそりプリンをつまみ食いしている所を目撃されたと思った美凰は、とんとんと胸のあたりを撫でさすりながら、きまり悪げに草壁を見上げた。

「く、草壁さん! あのう…、このこと…、き、恭弥さんには…、内緒にしててくださいね…」
「あ、姐さん…」


『草壁さん…。赤ちゃんの事は…、わたしの口から恭弥さんにお伝えしたいの…。だから、だから、まだ内緒にしててくださいね!〔by草壁哲矢の脳内変換…〕』


「わ、解りました! 避妊に失敗したとは申せ、お二人は既にご夫婦。誰に憚る事もございません。ご心配なさらずとも、十月十日後には不肖草壁、立派な“じいや”になってみせます! 委員長ジュニアの為に!」
「は?」
「ほ、本当に…、お、おめでとうございます! 姐さん! 自分は…、自分は…」

 逞しい肩を奮わせた草壁が感無量の様子で、きょとんとしている美凰の手を思わず握った瞬間、背後からチャキンという音と共に、銀色に輝くトンファーが草壁の喉許にあてがわれていた。

「なにやってんの、草壁?! 殺されたいわけ!」
「あっ! い、委員長っ! こ、この度はまことに、お、おめでとうございますっ!」
「は?」

 自分に向けられているトンファーをものともせず、ぐしぐしと感涙に咽んでいる草壁の様子に、唖然となった雲雀と、?という表情の美凰は視線を交し合った。

「美凰…、こいつなに言ってるの?」
「さあ…、わ、わたしにもよく…」
「委員長! 自分は委員長ジュニアの為に、今後とも粉骨砕身働かせて戴きますよ!」

 厳ついリーゼント男の泣き笑いに、雲雀は美麗な顔をぴくぴくと引き攣らせた。

「…、ジュニアってなんなの? 君、まさか…、ってか、僕の“息子”の為に身を粉にするのは美凰だけでいいんだよ! なんで超ノーマルなこの僕が君のご奉仕なんか受けなきゃならないのさ、気持ち悪い! 想像しただけで吐き気が…」

 気分悪げな雲雀の様子に、今度は草壁がきょとんとなった。

「は? 何のことですか、委員長? 自分は委員長と姐さんのお子様のことを申し上げているのですが…」
「は? なに言ってんの、君…」
「ですから、姐さんが身籠っていらっしゃる“委員長ジュニア”の事をですね…」
「「はあぁぁぁっ???」」

 雲雀と美凰は???という表情で互いに顔を見合わせた。



「…、委員長、ついに避妊に失敗なさったんでしょう? ですがお二人は正式なご夫婦ですし、少々早いかもしれませんがなんら問題は…」

 雲雀は一瞬、くらっとした様子で美凰の肩に手を置いた。

「美凰…、君、できちゃったの?! ワォ?! 僕…、ついにやっちゃった?!」

 対する美凰はぶんぶん頸を振って妊娠疑惑を否定した。

「してません!!! してませんし、できてませんっ!!! だ、だだだ、だってわたし…、き、昨日からアレですし…」

 一瞬、らしからぬ呆然顔を曝していた変態委員長は、気を取り直したかの様にうんうんと頷いた。

「…、そうだよね。僕、昨日はガ・マ・ンだったし…。〔どこの牛柄だよ! 僕!〕」

 熱い目頭をぐしぐし拭った草壁は、二人の言葉にぎょっとなった。

「では…、では姐さんの先程の吐き気は…」

 美凰は草壁を安心させようと照れ笑いを浮かべた。

「あ〜 あれはお昼過ぎに事務局長さんからラ・ナミモリーヌの“蕩けるプリン”を頂戴して、一個しかなかったものですから恭弥さんに内緒でこっそり食べて…、あ゛っ!」

 口を噤んだ時には既に遅し…。
 美凰の告白に、雲雀の漆黒の双眸が剣呑な光を帯びた。



「へぇ〜 僕に内緒でラ・ナミモリーヌの“蕩けるプリン”をねぇ〜」
「え…、えへへっ…」

 じりっと一歩歩を進められた美凰は焦りながら一歩後じさる。

「僕の大好物って、知ってる筈だよねぇ〜」
「あ、でも…、い、一個しかなかったし…」
「だったらその一個を“夫の為”にとっとくのが“妻の務め”じゃないの?!」
「い、今時そんな男尊女卑…。た、たかだかプリン一個で大げさな…。か、帰りに好きなだけ買って帰ればいいじゃないですか!」
「僕は今すぐ食べたいんだよ!」
「そんな我侭な…」
「じゃ、プリンの代わりにお仕置きだから! でもその前に…」

 雲雀はトンファーをさっと構え、茫然自失の草壁に渾身の一撃を食らわせた。

「がはっ!!!」
「とんでもない誤解はともかく、どさくさにまぎれて美凰の手を握っていた罰だよ。きっちり死んどいて!」

 哀れ…、雲雀ジュニアの“じいや”に立候補していた草壁はその場で悶絶死した…。



 ふんっと鼻を鳴らした雲雀は、次に美凰に眼を向けるや赤い舌でぺろりと唇を一舐めた。

「じゃ、次は君ね…」
「えっ! ひっ! わっ! うっきゃぁぁぁっ!!!」

 呆然としていた美凰はひょいと抱き上げられ、最近増築したばかりの秘密の小部屋〔草壁曰く『委員長の愛の巣篭り部屋?!/冷暖房・冷蔵庫・簡易シャワー・ダブルベッド完備』〕へ連れ去られた。
 そして雲雀ジュニアの懐妊を疑われた美凰は、疑惑が現実になる様な際どくえっちなお仕置きを変態委員長から食らったとか…。
 並盛中学は今日も平和で、愛が満ち溢れていた…。
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